精神科や産業医として働いていると、「最近、風邪を引きました」という方々とよく遭遇するのですが、メンタル不調と風邪には何か関連があるのでしょうか。
このことについて調べるために、1991年のカーネギーメロン大学の論文を読んでみました(Cohen et al., 1991)。
こちらの研究では、まず420名の健常者を対象に、
・ここ1年間のストレスイベント
・主観的なストレス
・ネガティブな感情
についてアンケート調査を行い、最近のストレスの度合いを測定しました。
その後、風邪を引き起こすウイルスが含まれた点鼻を受け、どのような人が風邪を発症したのか調査しています。
人工的に風邪を発症させようとするなんて、すごい研究ですね。
ニューイングランドジャーナルという名門紙に掲載されている論文ですが、昔だからできた研究かもしれません。
いまの時代では倫理的に承認できないのではないでしょうか。
まぁ、それは置いといて、この研究では以下のようなことがわかりました。
・ストレスレベルが高くなるにつれて、風邪を引きやすくなる
・ストレスレベルが下位25%の人と比べて、上位25%の人の風邪の引きやすさはオッズ比2.16 (95%CI 1.11 to 4.23)
やはり、メンタル不調だと風邪を引きやすいようですね。
「病は気から」という言葉もありますが、あれは正しかったようです。
ただ、そうなると、
・実生活ではどのくらい風邪を引きやすくなるの?
・どのようなストレスが影響しているの?
といったことに関しても興味が出てきます。
私の飽くなき好奇心に基づいて文献検索を行ったところ、答えが見つかりました。
まず、実生活でどのくらい風邪をひきやすくなるのかということですが、2001年のサンティアゴ・デ・ コンポステラ大学の論文が参考になります(Takkouche et al., 2001)。
こちらの研究では、1,149名のスペインの大学職員を1年間追跡して、ストレスと風邪の引きやすさについて調査しています。
ここでのストレスの指標としては、ストレスイベント、ネガティブな感情、ポジティブな感情、主観的なストレスの4つが用いられました。
そしてその結果、以下のようなことがわかりました。
・ネガティブな感情の度合いが上位25%の人は、下位25%の人に比べて、3.7倍風邪を引きやすい(95%CI 2.2 to 6.2)
・同様に、主観的なストレスでは2.5倍(95%CI 1.5 to 4.1)、ストレスイベントでは1.9倍(95%CI 1.1 to 3.2)風邪を引きやすい
・ポジティブな感情では、0.6倍(95%CI 0.3 to 1.0)風邪を引きにくくなる
どうやら、実生活でもメンタル不調によって風邪を引きやすくなるようです。
なかでも、ネガティブな感情の存在というは大きいですね。
1年に何回も風邪を引く方々と診察や面談で接するときは、感情面の変化も確認していく必要がありそうです。
次に、どのようなストレスが影響しているのかということです。
このことに関しては、1998年のカーネギーメロン大学の論文が参考になります(Cohen et al., 1998)。
よくみると、最初に紹介した論文と同じ人が書いています。
ストレスと風邪の関係についてアツい思いのある方のようです。
こちらの研究では、例によって、276名の健常者を対象として、風邪を引き起こすウイルス入りの点鼻を受けてもらっているのですが、今回はどのようなストレスを受けているのかもアンケート調査を行っています。
その結果わかったのは、
・慢性のストレスで風邪を引きやすい(オッズ比:1か月以上 2.2、3カ月以上 2.9、6カ月以上 2.3)
・仕事のストレスで風邪を引きやすい(オッズ比:4.8)
ということです。
そう考えると、仕事で慢性的なストレスを抱えている方はダブルパンチですね。
産業医面談でよく風邪を引く方々と会うのもうなづけます。
「ストレスはお肌の大敵」という記事でも書きましたが、慢性的なストレス状態ではコルチゾールという抗ストレスホルモンなどが高くなっているせいで、免疫機能が抑制されて風邪を引きやすくなっているのでしょうね。
普段あまり風邪を引かない人が風邪を引きやすくなったときは、身体面だけでなく、メンタル面の変化にも注意していきたいところです。
参考文献:
Cohen, S., Tyrrell, D. A., & Smith, A. P. (1991). Psychological stress and susceptibility to the common cold. New England journal of medicine, 325(9), 606-612.
Cohen, S., Frank, E., Doyle, W. J., Skoner, D. P., Rabin, B. S., & Gwaltney Jr, J. M. (1998). Types of stressors that increase susceptibility to the common cold in healthy adults. Health Psychology, 17(3), 214.
Takkouche, B., Regueira, C., & Gestal-Otero, J. J. (2001). A cohort study of stress and the common cold. Epidemiology, 12(3), 345-349.