2019年7月12日金曜日

地球上で暮らす70億人の中から、堀大介という男について紹介したい


私の大学院時代における唯一無二の同級生、それが堀大介だ。





彼は金沢大学からの国内留学という異例な形で突如として筑波にやってきた。



彼にとって、つくばは縁もゆかりもない地である。



結婚したばかりで幼い子供もいるような状況で、つくばに移住するのは大きな決断であったことだろう。



しかし、「働く人のメンタルヘルスを研究したい」という揺るぎない熱意とこの分野で研究者としてのスターダムに駆け上がろうとする野心が彼をつくばの地に導いた。




我々の学年は上にも下にも大学院生がいないという孤立無援な環境下で研究を強いられたが、我々にとってはお互いの存在だけで十分だった。



どちらかが論文を出せばもう一方も論文を出し、どちらかがポモドーロ・テクニックを使えばもう一方はスタンディングデスクを導入し、どちらかが筋トレを始めればもう一方はタバタ式を始めるといった具合に切磋琢磨した。



また、論文のリジェクトに屈しない強靭なメンタリティを構築するため、研究室で相撲をとり、肩を揉み合い、カラオケでアナ雪をデュエットすることで、互いに叱咤激励し、自らのポテンシャルを最大限まで高め合った。



その甲斐あって、研究面では今までの院生史上、類を見ない業績を残し、例年合格が危ぶまれる厳しい学位審査を我々は無事に通過し、大学院を卒業することができた。




その後、彼は大学院時代の功績が認められ、筑波大学の助教として晴れて採用されることになった。ついに研究者としての道を歩み始めたのだ。



彼は研究者としての頭角をすぐに現し、教員1年目で日本最大の産業保健の英知が集まる産業衛生学会で若手優秀演題賞を獲得した。



これはグラミー賞でいうところの新人賞であり、彼は産業保健界のサム・スミス、マルーン5、ノラ・ジョーンズ、クリスティーナ・アギレラになったのだ。



研究者としての才能を開花し、前途有望に光り輝く彼の将来は眩しすぎて見えない。




そんな中、彼の論文が新たにBMC Public Healthから出版された。



さっそくこのブログで紹介しようと思っていたら、向こうから「ぜひ紹介してほしい」と逆オファーを頂いた。



無論だ。大学院時代の唯一無二の同級生であり、将来有望な若手研究者であり、カラオケでアナ雪をデュエットした堀大介のために満を持して紹介しよう(Hori et al., 2019)。




研究内容としては、筑波研究学園都市における労働者6,325名を対象としてWebアンケート調査を行い、職場のソーシャルキャピタルと自殺念慮には関連があるのかについて解析している。



ソーシャルキャピタルとは、社会における人々の信頼関係と結びつきを意味する言葉で、先行研究ではソーシャルキャピタルは主観的健康と関連があることなどが報告されている(Kawachi et al., 1999)。



つまり、この研究では「ソーシャルキャピタルって健康に良さそうだけど、自殺念慮にも保護的に働くんじゃないの?」ということについて調べているというわけだ。




そして特筆すべき点は、研究協力者にイチロー・カワチ先生がいることだ。



イチロー・カワチ先生は、公衆衛生分野で知らない人はいないほどの世界的権威であり、ハーバード大学の教授も務めている。



ソーシャルキャピタルの専門家であるため、今回の研究に関して協力を依頼したところ、快く引き受けてくださったのだ。きっと心が広いお方に間違いないだろう。




では、研究結果がどのようになったのかみていこう。



・ここ1年間で自殺念慮を認めたのは、男性で5.9%、女性7.8%


・ソーシャルキャピタルが低いと、男女ともに自殺念慮を有意に抱きやすい(オッズ比:男性2.57, 女性1.75)




やはり、ソーシャルキャピタルは自殺念慮の保護因子となっていたのだ。



結果としては予想通りと思うかもしれないが、一般的に自殺念慮は倫理的に尋ねにくい質問項目である。



というのも、「自殺念慮について尋ねておいて、自殺念慮を認めた人に対しては何もしないのか?」という問題が出てくるからである。



しかし、この研究は、つくばの自殺対策を推進する目的で始まった調査の一環として行われたものであるため、日本で初めてソーシャルキャピタルと自殺念慮の関連について明らかにすることができたのだ。



そういう意味で、この研究のストロングポイントは、フィールドとネットワークにあると言えるだろう。




また、ソーシャルキャピタルは自殺念慮の保護因子となっていることがわかると、次に気になるのが、「どのようにしてソーシャルキャピタルを高めていけばよいのか」ということだろう。



この辺りの研究の展望も含めて、今後の堀大介の活躍から目が離せない。