2021年3月27日土曜日

長時間労働で心身の健康リスクが高まるのは何時間からか?

 


長時間労働は健康に悪い。これは周知の事実である。



仕事の量的負荷によるストレスや休息時間の減少によって、心身の健康に悪影響を与えるのである。



そのため、産業医である私は長時間労働面談を実施して、残業時間が著しい職員の健康状態を確認して、必要があれば就業制限の検討などを行っている。





ここで気になってくるのは、長時間労働は一般的に何時間くらいから健康面に悪影響を与えるのかということである。



このことは意外と知られていない。



就業制限を検討する立場としては、どのくらいまで残業を抑えればいいのかといった目安が必要だと感じる。





そこで、長時間労働が何時間から心と体に影響を与えるのかについて調べてみた。



まずは体への影響についてである。



参考になったのが、2015年のロンドン大学の研究である(Kivimaki et al., 2015)。



こちらの研究では、長時間労働と心血管系疾患(心臓病や脳卒中など)の関係について調査した25件の先行研究(対象者603,838名)をメタ分析している。



メタ分析で複数の研究を定量的に評価してくれているところがありがたい。





この研究では以下のようなことがわかった。



・週の労働時間が36-40時間の人に比べて、週49時間以上だと脳卒中のリスクが有意に高まる


・脳卒中のリスクは、週49-54時間で27%、週55時間以上で33%増加



週5日勤務で1日8時間のフルタイムで考えると、1日約2時間以上・週に9時間以上・月に36時間以上の残業は体に悪影響があるということになる。



思っていたよりもシビアな結果である。



このくらいの残業をしている方々は結構多いのではないだろうか。



短期間で影響が出るものではないだろうが、慢性的な長時間労働は避けたいところである。





続いて、長時間労働がメンタルに与える影響についてみていこう。



参考になるのは、2012年のフィンランドの研究である(Virtanen et al., 2012)。



こちらの研究では、イギリスの公務員(男性1,626名、女性497名)を平均5.8年追跡して、労働時間とうつ病の発生状況の関連について調査している。





ここでわかったのは、以下のようなことである。



・1日の労働時間が7-8時間の人に比べて、11-12時間の人ではうつ病のリスクが有意に高い(オッズ比 2.52)



さきほどと同じように、週5日勤務で1日8時間のフルタイムで考えると、残業が1日3時間以上・週15時間以上・月60時間以上となる場合はうつ病のリスクが高まるということになる。



確かに残業が1日3時間以上となってくると、疲労が蓄積するだけでなく、睡眠時間も削られるため、メンタル不調を来しやすくなることが想定される。



私も研修医時代は月120時間くらい残業していたときがあったが、そのときは色々と心身の不調が出やすかったことを覚えている。



休息時間をしっかり確保できる働き方を目指していきたいところである。





というわけで、今までの話をまとめると、



・長時間労働で心血管系疾患のリスクが高まるのは、残業が月36時間以上から


・長時間労働でうつ病のリスクが高まるのは、残業が月60時間以上から



ということになる。



健康のためには、残業は1日2時間以内に留めておいたほうが良さそうである。



ぜひ参考にしていただきたい。