2019年2月16日土曜日

組織的公正がメンタルヘルスに与える影響について調べてみた


以前にご紹介した「メンタル不調になりやすい仕事のストレス」では、仕事の不公平感が大きな影響力をもっていましたが、その他に職場に及ぼす影響としてはどのようなものが存在するのでしょうか。


文献


このことについて調べるために、Occupational Medicineに掲載されていた論文を読んでみました。

Steven Nimmo; Organizational justice and the psychological contract, Occupational Medicine, Volume 68, Issue 2, 27 March 2018, Pages 83–85


こちらは2018年のデリフォード病院の論文で、組織的公正と職場のメンタルヘルスの関係についてレビューしています。



組織的公正とは何か


まず組織的公正とはどのようなものかと言うと、法やモラルなどと照らし合わせて、「組織が公平で正しいこと」です。


最近では、この組織的公正は以下の4つに分類されています(Kivimäki et al., 2004)。


・分配的公正(行った仕事に対して平等に成果が与えられている)

・手続き的公正(意思決定の過程が明確となっている)

・情報的公正(手続きや成果に関する説明が平等に与えられている)

・相互作用的公正(一人一人が平等に尊重されて扱われている)



つまり、組織的公正では、成果、手続き、情報、人間関係の4つを重要視しているということです。


確かに、自分の行った仕事に成果が与えられず、その意思決定の手続きも不透明で、十分な説明もなく、他の人が優遇されていたら、大きなストレスになりそうです。



自分の経験を振り返ってみると、研修医時代に働いていて特にストレスが大きかった診療科は、まさにこんな感じでした。


仕事に対してはダメ出しばかりで、治療方針は自分のいないところで勝手に決定されており、それについての説明もなく、仕事の負担にも偏りがありました。


メンタル不調で職場に来れなくなった同僚もいたくらいなので、今もそのような状況だったら、組織的公正について学んだほうがいいでしょうね。



組織的公正がメンタルヘルスに与える影響


組織的公正と従業員の健康について2年間追跡したフィンランドの研究では、以下のようなことがわかりました(Kivimäki et al., 2004)。


・組織的公正が悪いと、男性では41%、女性では12%休職しやすい

・精神的不調のオッズ比は、男性で1.6(95%CI 1.0 to 2.6)、女性で1.4(95%CI 1.2 to 1.7)だった




どうやら、組織的公正は精神的不調だけでなく、休職にも影響を与え、その影響は特に男性のほうが大きく表れるようです。



その他の研究でも、


・組織的公正は、認知機能、メタボ、虚血性心疾患との関連がある

・職場での不公平に扱われると、睡眠の質が低下しやすくなる


などが指摘されており(Elovainio et al., 2012Elovainio et al., 2009)、職場の生産性に与える影響は軽視できないでしょう。



組織的公正の良いところ


逆に、組織的公正のメリットもあり、


・組織的公正が良いと、組織への関わりが強くなり、仕事の満足度が上がる


といったことが報告されています(Heponiemi et al., 2011)。



このようなことを考えると、組織的公正を大事にしているかどうかで職場環境は大きく変わってきそうですね。


このあたりは個人レベルでの改善は難しいですが、組織の経営層や管理職に向けにお話する機会があるときは伝えていきたいです。



参考文献:
Elovainio, M., Ferrie, J. E., Gimeno, D., De Vogli, R., Shipley, M., Brunner, E. J., ... & Kivimäki, M. (2009). Organizational justice and sleeping problems: the Whitehall II study. Psychosomatic Medicine71(3), 334-340.
Elovainio, M., Singh-Manoux, A., Ferrie, J. E., Shipley, M., Gimeno, D., De Vogli, R., ... & Kivimäki, M. (2012). Organisational justice and cognitive function in middle-aged employees: the Whitehall II study. J Epidemiol Community Health66(6), 552-556.
Heponiemi, T., Elovainio, M., Kouvonen, A., Kuusio, H., Noro, A., Finne-Soveri, H., & Sinervo, T. (2011). The effects of ownership, staffing level and organisational justice on nurse commitment, involvement, and satisfaction: a questionnaire study. International journal of nursing studies48(12), 1551-1561.
Kivimäki, M., Elovainio, M., Vahtera, J., & Ferrie, J. E. (2003). Organisational justice and health of employees: prospective cohort study. Occupational and environmental medicine60(1), 27-34.
Kivimäki, M., Ferrie, J. E., Head, J., Shipley, M. J., Vahtera, J., & Marmot, M. G. (2004). Organisational justice and change in justice as predictors of employee health: the Whitehall II study. Journal of Epidemiology & Community Health58(11), 931-937.