高齢者のうつ病は抗うつ薬が効きにくく、なかなか治療が難しいと感じるところでありますが、効果的な心理療法は存在するのでしょうか。
文献
このことについて調べるために、PLOS ONEに掲載されていた論文を読んでみました。
Jonsson, U., Bertilsson, G., Allard, P., Gyllensvärd, H., Söderlund, A., Tham, A., & Andersson, G. (2016). Psychological treatment of depression in people aged 65 years and over: a systematic review of efficacy, safety, and cost-effectiveness. PloS one, 11(8), e0160859.
こちらは2016年のスウェーデンのカロリンスカ医科大学の論文で、高齢者のうつ病に対する心理療法についてランダム化比較試験を行った14の先行研究をメタ分析しています。
ランダム化比較試験とは、研究対象者を「介入群」と「対照群」に無作為に分けて、介入の効果を評価する手法のことです。
対照群という比較対象をつくることで、介入前後の変化が本当に介入の効果によるものだったのか評価しやすくなるため、研究の信頼性も高くなるのです。
メタ分析とは、今までの関連するテーマの先行研究を集めてきて、定量的に評価する手法のことで、複数の研究をまとめた結果なので、こちらも研究の信頼性は高くなります。
つまり、ランダム化比較試験のメタ分析の信頼性は、まさに「鬼に金棒」状態なのであります。
メタ分析では「効果量」という標準化した数値で効果の大きさを表しますが、ここで用いられている平均の差の効果量の目安としては、0.2で「小さい」、0.5で「中程度」、0.8で「大きい」効果があるとされています(Cohen, 1988)。
心理療法の中身
こちらの研究では、以下の3つの心理療法が見つかりました。
・問題解決療法:問題の本質を明らかにし、目標を設定して、解決策を実行していく方法
・認知行動療法:物の考え方や行動を変えて、問題に対処していく方法
・回想法:今までの人生で良かったことについて具体的に思い出して、人生の意味づけを再構成していく方法
問題解決療法や認知行動療法については聞いたことがある方もいらっしゃると思いますが、回想法についてはあまり耳慣れないのではないでしょうか。
「子供時代に最も楽しかった思い出は何ですか」
「仕事で最も誇りに感じた経験について教えてください」
「人生で最も重要だと思うことは何ですか」
うつ状態では、今までの人生のなかでの特定の記憶(結婚した日など)について思い出すことが難しいと報告されており(Williams, 2004)、これを改善するとうつ状態も良くなるのではないかと考えられているのです(Serrano et al., 2012)。
本当に効くのかと思いたくなりますが、実際に回想法によってうつ状態が改善したということは先行研究で報告されています(Serrano et al., 2004)。
結果
それでは、今回のメタ分析でそれぞれの心理療法がうつ状態に対してどのくらいの効果量があったのかみていきましょう!
・問題解決療法 -1.58 (95%CI -2.60 to -0.55)
・認知行動療法 -0.50 (95%CI -1.41 to 0.42)
・回想法 -1.01 (95%CI -1.39 to -0.63)
問題解決療法と回想法では統計的に有意な結果となっており、効果量も大きいですね。
どちらも具体的なアクションプランがあって取り組みやすいところが、効果にもつながりやすいのでしょうか。
反面、認知行動療法では、長年培ってきた物の考え方を修正するのが難しかったり、加齢による認知機能機能の低下があったりして、効果が現れにくいのかもしれません。
いずれにしても、回想法が思った以上に効果量が大きかったのは意外でした。
もう少し勉強して、日常の診療でも取り入れてみたいです。
参考文献:
Cohen, J. (1988). Statistical power analysis for the behavioral sciences 2nd edn.
Serrano Selva, J. P., Latorre Postigo, J. M., Ros Segura, L., Navarro Bravo, B., Aguilar Córcoles, M. J., Nieto López, M., ... & Gatz, M. (2012). Life review therapy using autobiographical retrieval practice for older adults with clinical depression. Psicothema, 24(2).
Serrano, J. P., Latorre, J. M., Gatz, M., & Montanes, J. (2004). Life review therapy using autobiographical retrieval practice for older adults with depressive symptomatology. Psychology and aging, 19(2), 272.
Williams, J. M. G. (2004). Experimental cognitive psychology and clinical practice: Autobiographical memory as a paradigm case. Cognition, emotion and psychopathology, 251-269.