2019年7月31日水曜日

絶体絶命のお蔵入りの危機に瀕していた我が論文が関係者各位の神対応によってPLOS ONEに爆誕した件に関しては、もう感謝の言葉以外に何もない!


2019年3月28日、私は絶望した。



論文の査読結果を5カ月間待った挙句、返ってきた答えはリジェクトだった。



これで今回リジェクトされたジャーナルは4件目となり、論文を投稿し始めてから既に1年以上が過ぎていた。



私は、そのとき思った。



この論文は詰んだ。万策尽きて、座して死を待つのみ。一度も日の目を見ることなく、永遠に闇の中に葬り去られ、お蔵入りになるだろうと。



都合の悪いことはなかったことにするという人間の例に漏れることなく、私は投稿作業をやめ、遠い記憶の彼方に封印することにした。我が論文よ、成仏したまえ。






研究活動のストレスを抑圧することに成功した私は通常業務に専念するようになったが、ここから事態は動き出す。



きっかけは、研究室主催で行ったセミナーが大成功し、大きな収益を上げることができたのことだ。



この収益が、今後の研究費として活用していく方針がミーティングで決まったのだ。



私は、ここで思いついた。



論文をオープンジャーナルに投稿することもできるのではないかと。



オープンジャーナルとは、査読後にアクセプトされると、掲載料を支払う代わりに論文を一般公開できるジャーナルのことをいう。



オープンジャーナルの掲載料は安くても20万円くらいが相場である。



これを身銭を切って負担するのは、いくら私が医者だからといっても荷が重く、今まで投稿先の選択肢としては考えてこなかった。



論文に多大な時間と労力を費やした上に、大金を失うというのは、努力報酬不均衡も甚だしい。精神衛生上、よろしくないだろう。






ただ、研究費が増えた今となっては、別問題である。



さっそく、オープンジャーナルへの投稿について研究室に相談したところ、快く了承をいただくことができた。



これによって、私は新たな活路を見出すことができたのだ。



今にして思えば、これが絶体絶命の崖っぷちの状況を打破する起死回生の天啓とも言うべき閃きであった。






また、このようなことが実現できたのは、医局員の育成にも熱心な筑波大学産業精神医学・宇宙医学グループで研究できたからこそであり、その恩恵には心から感謝の意を表したい。



ちなみに、当研究室では精神科や産業医に興味のある大学院生を募集している。職場のメンタルヘルスの専門家を目指したい先生方はぜひ入局について検討することをオススメする。



産業保健体制がしっかりしており、親切で優しい諸先輩の先生方からアドバイスをもらうことができる機会は他ではなかなか得られない。圧倒的な成長を経験できることは間違いないだろう。



さらに、無給医の存在が問題視される昨今の世の中だが、当研究室では一般的な後期研修医の相場よりも良いお給料がもらえるとかもらえないとか。



そのあたりの真偽については、ぜひ一度研究室に見学に来て確かめてみてほしい。






さて、オープンジャーナルの予算を確保した私は、どこに投稿しようかと思案した結果、最大手のPLOS ONEに出すことを決めた。



というのも、それ以外に思いつくところがなかった。



私にとって、「オープンジャーナルといえばPLOS ONE、PLOS ONEといえばオープンジャーナル」なのだ。



セリエAのユヴェントス、ブンデスリーガのバイエルンのように、オープンジャーナルはPLOS ONEが1強なのである。



私は、「これがラストチャンス!」と意を決して、論文を投稿した。






すると、PLOS ONEから1か月もしないうちに返事が来た。



査読結果にしては、やけに早い。ははん、これは査読に回される前に編集者側で止められるパターン、いわゆるエディターキックだな。そうに違いない。



しかし、メールを開くと、そこには論文の査読結果が記載されており、修正して再提出するようにといった内容になっていた。



つまり、判定としては、リジェクトではなく、リヴィジョンだったのだ。



あまりに早い対応で、予想を上回る結果が返ってきた。これがオープンジャーナルというものなのか!?






そして、この段階で私は論文のアクセプトを確信した。



というのも、私の書いた論文が今までリジェクトされたことは星の数のように数えきれないが、リヴィジョンの後でリジェクトになったことは一度もない。



つまり、いまの私のアクセプト率は100%だ!






私は狂喜乱舞し、モチベーションの高さは優にスカイツリーを超えた。



「郷に入れては郷に従え」という精神のもと、1か月未満で査読された論文に対して、私も論文の修正作業を最大のプライオリティに掲げ、1か月未満で提出した。



そして、光回線のような速度でやりとりされた論文は初投稿からわずか2か月ほどで、「出版用に体裁を整えればアクセプトしますよ」といった通知を受け取ることができた。






私は、「もうアクセプトされたも同然」と余裕綽々で最後の修正作業を完了して、完成版をPLOS ONEに提出した。



そのはずだった。そうすべきだった。そうしなければならなかった。



しかし、有頂天の境地に達していた私は、何を血迷ったのか迂闊にも完成版のファイルをアップロードせずに、そのまま提出手続きを行ってしまった。つまり、修正前の原稿がそのまま送られてしまったのだ。



慌てて訂正しようとするも、さきほどの画面が出てこない。



よくメールを確認すると、「一度提出したら、もう修正できないので、ご注意ください」といったことが書かれている。



注意しても既に手遅れとなっている注意文ほど、心に刺さるものはない。



やってしまった。最後の最後で痛恨のミス。しかも、修正できない。



修正の指示があったものを無修正で出すとは、アクセプトを放棄したとみなされてもおかしくない。飛んで火にいる夏の虫の如く、致命的自爆行為。ワイの論文、オワタ。



オープンジャーナルに投稿できる予算を確保できたとき、リヴィジョンのお知らせが来たとき、体裁を整えればアクセプトするといったメールが来たときなどの良い思い出が走馬灯のように蘇る。



急騰した株価がその後暴落するように、私の夢も儚く散るのかと諦めつつ、一縷の希望を託し、完成版のファイルを添付して事務局宛に救済を請うメールを送った。






すると2日後、「ご連絡ありがとうございます。完成版のファイルは問題ありませんでしたので、こちらで出版手続きを進めます。アクセプトおめでとうございます。また何かありましたら、遠慮なくご連絡ください。」と返ってきた。



なんという神対応であろうか!



私のミスに対応するだけでなく、内容を確認して論文をアクセプトし、出版手続きを進め、また何かあったら柔軟に対応するという姿勢を示してくれている。



私は、論文がアクセプトされた喜びを忘れて、PLOS ONEの神対応ぶりに感動してしまった。



このときほどPLOS ONEに論文を投稿してよかったと思ったことはない。



論文の査読からトラブル対応まで広範囲にわたって、迅速で丁寧に対応していただいたことに心から感謝したい。



PLOS ONEで論文を出版できることになったのを光栄に思いつつ、オープンジャーナルのトップランナーとして今後の益々の発展を祈念している。






また、もう1つ感謝しなければならないことがある。



PLOS ONEに救済メールを出すときに、英語のライティングに手間取り、美容室アムベステンの予約時間から25分も遅れてしまった。



次のお客さんの予約が入っていたにも関わらず、スタッフの方々は嫌な顔一つせず、臨機応変な対応によって、うまく時間を調整して親切丁寧にカットしていただいた。



しかもそれだけでなく、お店が終わった後、一緒にご飯に連れていってもらい、ご馳走までしていただいた。



これにより、PLOS ONEでの失態で南海トラフの海底まで沈没していた私の自尊心は救出された。



こんな素晴らしい美容室を私は今まで経験したことがない。都内で美容室をお探しの方がいたら、ぜひアムベステンをオススメしたい。



噂によると、美容師さんの腕の良さが話題となり、評判が評判をよんで、国内外の森保JAPANの選手たちも来るとか来ないとか。






さて、これで書き終えたと思ったら、肝心の論文の内容を紹介していなかったことに気づいた。



詳しくはPLOS ONEに載っているので、ここでは簡単に紹介する(Ohtaki et al., 2019)。



この論文では、2012年に全国いのちの電話に相談してきた未成年者24,333名を対象として、家庭問題と自殺念慮の関連について調査している。



子供たちにとって、家庭環境は相対的に大きなウェイトを占める場所であり、家庭問題は自殺念慮につながりやすいのではないかと考えたのである。



しかし、結果は予想に反するものとなり、家庭問題はその他の問題に比べて自殺念慮につながりにくかった(OR 0.426)




その原因としては、



・家庭問題では、良き相談者となるべき家族に相談しにくいため、些細な問題から電話相談につながりやすかった


・家庭問題が自殺念慮につながるまでにはタイムラグがある



といったことが挙げられる。



タイムラグとは何かというと、家庭問題が将来の自殺念慮に関連しているということである(Wagner, 1997Grilo et al., 1999; Stepakoff, 1998)。



家庭問題は自己適応能力の形成を阻害することが報告されており(Cole & Putman, 1992)、それによって衝動性や攻撃性を制御しにくくなって自殺行動につながりやすいのである(Mann et al., 1999)。



最近の研究では、子供時代の家庭内の逆境はDNAのメチル化を引き起こして、将来抑うつ症状を引き起こしやすくなることが報告されており(Dunn et al., 2019)、遺伝子レベルから影響を受けているようである。



したがって、今回の論文で家庭問題が現在の自殺念慮と関連しにくかったからといって安易に捉えるべきものではなく、長期的な視点で捉えていく必要性があることを示唆する内容となっている。



研究結果がネガティブデータのために解釈が難しいところはあるが、今回の研究が今後の児童・思春期精神医学の発展に少しでも貢献することを願ってやまない。