2019年7月2日火曜日

VRの世界観が想像を遥かに超えるものだったため、そのメンタル改善効果についてここに書き記すことにした


先日、Oculus QuestというVRゲーム機を買ってみました。




ゲームは中学以来やってこなかった私ですが、仮想空間とはどのようなものなのか気になります。


あの摩訶不思議な箱を覗くと、そこには奇想天外な世界が広がっているというのですから、好奇心の権化である私が確かめないわけにはいきません。


そこで、思い切って買ってみたわけですが、結果は想像を絶するものでした。



面白い、面白すぎる。



ヘッドセットをつけると、そこには現実とは別世界の光景が広がっており、本当にその世界にいるような没頭感があります。


試しに「Beat Saber」や「Creed: Rise to Glory」といった人気ゲームをやってみると、さらに圧倒的な臨場感のある世界が繰り広げられており、ゲームに疎い私でも時間が経つのを忘れるくらい無我夢中の境地に引き込まれます。


まるで現実のようなリアリティをもっており、夢にも出てきそうな感じがあります。そして、実際に出てきました。


こんな代物はSFの世界にしか存在しないと思っていましたが、実生活で目の当たりにすることになり、現代テクノロジーの発展ぶりに驚かせられます。


今まで「ゲームなんて所詮暇つぶしの道具やろ。どんだけ人生無駄にしとんねん。生産性悪すぎてマジワロタwww」と陰ながら心の中でディスってきましたが、今では「1分1秒でも早く帰ってゲームがしたい」「All I need is GAME!」と180度態度が変わってしまいました。


きっとこれだけの恐ろしいポテンシャルをもつVRであれば、メンタルにも何らかの影響があるはずです。


そこで、VRのメンタル改善効果について調べてみました。



まず、参考になるのが2016年のロンドン大学の論文です(Valmaggia et al., 2016)。


こちらの論文では、メンタルヘルスの問題に対してVRを用いて心理療法を行った先行研究24件を系統的にレビューしています。


その結果、


・VRを用いた心理療法は、従来の治療法と比べて同じくらいの効果がある


と報告されています。


特に、ここで調査対象となった先行研究24件をみてみると、14件は不安や恐怖に関するものとなっています。


2017年のオックスフォード大学のレビュー論文でも、


・最も確かなのは、VRによって不安が軽減できること


と指摘されており(Freeman et al., 2017)、VR環境下で不安や恐怖の対象に曝露することが症状の改善に役立つようです。


確かに、VRであれば、不安や恐怖を感じる場面を設定しやすいですし、嫌になったらすぐに中止することもできるため、負荷を調整しやすいというメリットはありそうですね。



定性的にVRは不安や恐怖の改善に効果があるとわかったところで、次に気になるのは、「定量的にどのくらい効果があるの?」ということではないでしょうか。


心の中で「そうだ!そうだ!」と思われた皆様のために、調べておきました。メタ分析を。


参考になるのは、2019年のテキサス大学の論文です(Carl et al., 2019)。


こちらでは、VRの曝露療法に関して比較試験を行った先行研究30件(対象者1,057名)の効果をメタ分析しています。


対象者の疾患としては以下のようなものでした。


・特定の恐怖症(飛行機やクモなど) 14件

・社交不安障害 8件

・PTSD 5件

・パニック障害 3件



そして、このような疾患に対してどのくらい効果があったかというと、


・VRの曝露療法は、対照群と比較して、有意に大きな効果がある(Hedge's g = 0.88, 95%CI: 0.69-1.07)

・VRの曝露療法は、実際の曝露と比較して、有意な違いはみられない(Hedge's g = -0.07, 95%CI: -0.28-0.15)


となりました。


つまり、VRの曝露療法は、実際の曝露療法と同じくらい効果があるということになります。


VRのほうがより手軽に曝露環境を調整できることを考えると、今後VRによる治療が普及してくるかもしれませんねぇ。



さらに、この研究では疾患別の解析も行っています。


・特定の恐怖症(g = 0.95, 95%CI: 0.63-1.28)

・社交不安障害(g = 0.97, 95%CI: 0.62-1.31)

・PTSD (g = 0.59, 95%CI: 0.26-0.92)


・パニック障害 (g = 1.03, 95%CI: -0.02 to 2.08)


この結果をみると、特に特定の恐怖症や社交不安障害に対してVRの曝露療法の効果は大きいようです。


私も人前で話すのは苦手なので、VRを使って講演の練習とかできると役立ちそうだなぁと感じます。


きっとこれからVRを用いた心理療法はますます普及してくると思うので、今後の動向にも注目していきたいです。


それでは、またゲームがやりたくなったので、今日はこの辺りで失礼します。



参考文献:
Carl, E., Stein, A. T., Levihn-Coon, A., Pogue, J. R., Rothbaum, B., Emmelkamp, P., ... & Powers, M. B. (2019). Virtual reality exposure therapy for anxiety and related disorders: A meta-analysis of randomized controlled trials. Journal of anxiety disorders61, 27-36.
Freeman, D., Reeve, S., Robinson, A., Ehlers, A., Clark, D., Spanlang, B., & Slater, M. (2017). Virtual reality in the assessment, understanding, and treatment of mental health disorders. Psychological medicine47(14), 2393-2400.
Valmaggia, L. R., Latif, L., Kempton, M. J., & Rus-Calafell, M. (2016). Virtual reality in the psychological treatment for mental health problems: an systematic review of recent evidence. Psychiatry research236, 189-195.