「ハゲタカジャーナル」という言葉をご存知でしょうか。
私もつい最近、先輩の道喜先生からこの言葉を聞きました。
(「道喜先生って誰?」と思った方は、私が過去に道喜先生の素晴らしさについてアツく書き綴った記事があるので、そちらを参照してください。)
「ハゲタカ」というと、そのネガティブな語感から、すごく悪そうな雑誌がイメージされますよね。
企業買収でもしてくるのかとビビります。
さらに英語では、ハゲタカジャーナルのことを「predatory journal」と表記しています。
そう、あのプレデターと同じ言葉が使われているのです。
プレデターといえば、エイリアンと互角に戦えるだけの戦闘能力をもった獰猛な捕食者。
出会った瞬間、死を覚悟しないといけない相手です。
企業買収だけでなく、読んだら殺されそうな雑誌の気さえしてきます。
こんな恐ろしいイメージを連想させる雑誌を野放しにしておくわけにはいかないので、ハゲタカジャーナルの実態について調べてみました。
実際に調べてみると、ハゲタカジャーナルとは、
・たいした査読もせずに論文の掲載料を搾取して収益をあげるオープンジャーナル
のことを意味します。
一般的に、論文を掲載するためには、その分野の複数の専門家にきちんと査読してもらい、指摘事項に対して説明や修正を行うことで、科学的な信頼性・妥当性を担保する必要があります。
そのプロセスが抜けてしまうと、金さえあれば論文を出し放題という状態になり、粗悪な論文が世の中に出回ってしまうことになります。
このような状態が進行すれば、研究の信憑性は無残に捕食され、だれも信じられなくなった科学は死を迎えてしまいます。
やはり、ハゲタカジャーナルは科学界にとって恐ろしい存在となっているようです。
2019年にLancet Psychiatryに掲載された論文では、
・精神科では126のハゲタカジャーナルがある
・過去約12年間で6,925件の論文がハゲタカジャーナルから出版
・1つの論文につき、平均2.84回引用されている
・共著者の出身としては、イランが23.5%で最も多い
といったことが報告されています(Omer et al., 2019)。
ハゲタカジャーナルから出版された論文は、ネイチャーやランセットといった有名科学雑誌の論文でも引用されているようで、事態はなかなか深刻のようです。
このようにハゲタカジャーナルからの出版が蔓延する背景としては、論文著者にも要因があります。
2018年のトルコの研究では、
・大学で早く昇進したい
・ハゲタカジャーナルに出版することで金銭的なインセンティブを得られる制度がある
・論文を出さないと仕事をクビにされる
・ハゲタカジャーナルだと気づかなかった
などが挙げられています(Demir, 2018)。
ハゲタカジャーナルを撲滅するためには、著者側のこのような現状を考慮したうえで対策を立てていく必要がありそうですね。
最近では、ハゲタカジャーナルのリストを公開しているサイトもあるので、論文を投稿する際は事前に確認しておくとよいかもしれません。
まずは、自分でできる対策からハゲタカジャーナルを駆逐していきましょう。
参考文献:
Demir, S. B. (2018). Predatory journals: Who publishes in them and why?. Journal of Informetrics, 12(4), 1296-1311.
Omer, J., Mohammed, S. H., Salih, R. Q., Kakamad, F. H., Mikael, T. M., Mohammed, K. K., ... & Salih, A. M. (2019). Predatory journals in psychiatry. The Lancet Psychiatry.