2019年6月5日水曜日

「ダイバーシティが大事」とは言われるが、実際どうしたらよいのか考えてみた


効果的なチーム作りとして「ダイバーシティ(多様性)」が注目されたりしていますが、ダイバーシティを生かすには、実際どうしたらよいのでしょうか。




文献


このことについて調べるために、Journal of Organizational Behaviorに掲載されていた論文を読んでみました。

Wang, J., Cheng, G. H. L., Chen, T., & Leung, K. Team creativity/innovation in culturally diverse teams: A meta‐analysis. Journal of Organizational Behavior.


こちらは2019年の寧波ノッティンガム大学の論文で、チームの多様性創造力の関係について調査した44の先行研究(2,832チーム対象)をメタ分析しています。


メタ分析とは、関連するテーマの論文を集めてきて、定量的に評価する手法のことで、複数の論文をまとめた結果であるため、結果の信頼性が高くなります。


メタ分析では「効果量」という標準化された数値を用いて効果の大きさを評価しますが、この研究で用いられた相関の効果量(r)としては、0.10で「小さい」、0.30で「中程度」、0.50で「大きい」効果があるとされています(Cohen, 1988)。



チームの多様性のメリットとしては、今まで考えもしなかった独創的なアイディアがうまれるなどの「創造力」がありますが、この研究ではその創造力がどのような条件のときに発揮されるのか調べたというわけです。



結論


ではさっそく、この研究でわかった創造力が発揮される条件をみていきましょう。


・浅いレベルの多様性(国籍や人種など)では創造力は高まらず(r = -0.02, 95%CI: -0.11 to 0.06)、深いレベルの多様性(価値観や考え方など)が必要(r = 0.16, 95%CI: 0.06 to 0.25)

・深いレベルの多様性があっても、リモートではなく(r = 0.02, 95%CI: -0.03 to 0.06)、同じ場所で働くことが必要(r = 0.18, 95%CI: 0.07 to 0.29)

・扱う仕事内容も一人でできるものではなく(r = -0.10, 95%CI: -0.43 to 0.23)、協力が必要なものに限る(r = 0.19, 95%CI: 0.11 to 0.28)



この結果をみると、「ダイバーシティは大事」と言っても、その効果が発揮できる条件は限られているようですねぇ。



解釈


どうしてこのような結果になったかというと、「ダイバーシティの弊害」が関係しています。


チームの多様性はうまく機能すれば創造力の発揮につながりますが、そうでない場合は自分のアイデンティティが脅かされたと感じ、文化的な対立や拒絶などが生じて逆効果になってしまうのです(Leung & Wang, 2015; Stahl et al., 2010)。


ダイバーシティは手放しで喜べるものではなく、諸刃の剣ということですね。


実際に、アメリカで行われた研究では、アメリカ人ではない多文化グループと人種的背景が同じアメリカ人グループの知識や考え方の多様性に違いがなかったことが示唆されています(Rebhun & Waxman, 2000)。



そのため、今回の研究でチームの多様性によって創造力が発揮できる条件が見つかったことは大きいですね。


創造力を発揮するために、「深いレベルの多様性」「同じ職場」「協力」が必要なことは覚えておいたほうがよさそうです。



参考文献:
Cohen, J. (1988). Statistical power analysis for the behavioral sciences 2nd edn.
Leung, K., & Wang, J. (2015). Social processes and team creativity in multicultural teams: A socio‐technical framework. Journal of Organizational Behavior36(7), 1008-1025.
Rebhun, U., & Waxman, C. I. (2000). The" Americanization" of Israel: A demographic, cultural and political evaluation. Israel Studies5(1), 65-91.
Stahl, G. K., Maznevski, M. L., Voigt, A., & Jonsen, K. (2010). Unraveling the effects of cultural diversity in teams: A meta-analysis of research on multicultural work groups. Journal of international business studies41(4), 690-709.