私は筑波大学で医学サッカー部に所属していた時期があります。
軟弱な私は途中でやめてしまいましたが、当時の筑波大学は東日本の医学部のなかで複数の優勝歴がある強豪校でした。
その強さたるや恐ろしいもので、「三度の飯よりサッカー」「no soccer, no life」を体現し、多くのJリーガーや日本代表を輩出してきた筑波大学の蹴球部のチームに勝ってしまうほどの実力を兼ね備えた、ハイスペック男子の集まりでした。
ある日、某大学との練習試合を快勝した後、ふと相手マネージャーの会話が耳に入ってきました。
「筑波って練習週3らしいよ。うちは週5でやっているのに、どうして勝てないのかな?」
今まで行ってきた努力が報われないという努力報酬不均衡を端的に表した発言でしょう。
ストレスフルな状況に置かれていることが痛いほど伝わってきます。
チームの勝利を願って懸命にサポートしてくれているマネージャーにこのようなことを言われたら、選手として精神的ダメージは甚大なものになるでしょう。
私が相手選手の立場だったら、ショックから立ち直れず、三日三晩寝込んだ後、夜の公園のベンチで自分の行いを反省し、決して消えることのない劣等感と絶望感を紛らわすためにゴールデン街、思い出横丁、ホッピー通りで飲み明かし、ジャンクフードをドカ食いし、自らが犯した罪の重さと過剰なカロリー摂取で増えた体重により膝を痛め、ついでにおなかを壊し、昨日カレーを食べすぎなければよかったと後悔しながら、退部届を提出していたことでしょう。
ただ確かに、その大学とは練習試合や公式戦を通じて、ほとんど負けたことはありませんでした。いや、もしかしたら1回もないかもしれません。
しかも、私の大学時代の最初と最後のゴールは、その大学が対戦相手だったという何とも縁起の良いエピソードまであります。
しかし、「努力が報われる」「継続は力なり」という言葉が正しいのであれば、練習が週3の筑波より週5の某大学のほうが勝っておかしくないはず。
そこには、練習の差を補って余りある何かが存在しているのでしょうか。
そこで、練習がパフォーマンスに与える影響はどのくらいあるのか文献検索してみると、2016年のケース・ウェスタン・リザーブ大学の論文が参考になりました(Macnamara et al., 2016)。
こちらの研究では、練習と運動パフォーマンスの関係について調査した33件の先行研究(対象者2,765名)をメタ分析しています。
その結果、以下のようなことがわかりました。
・練習とパフォーマンスは有意に相関している(r = 0.43, 95%CI 0.35 to 0.50)
・ただし、練習はパフォーマンスのばらつきの18%しか説明していない
・さらに一流選手に限定した場合は、その割合は1%まで低下する
・個人vsチーム、屋内vs屋外、球技vs非球技、内的要因が大きいスポーツ(ダーツなど)vs外的要因が大きいスポーツ(バレーボールなど)で有意な差はみられない
確かに、練習はパフォーマンスに影響を与えるけれども、その影響力は思ったほど大きくはないようです。
さらに、一流選手に限っては練習がパフォーマンスのばらつきに与える影響は1%ですから、スキルが上がるとさらに練習の効果は小さくなってしまいます。
まぁ、ここで扱っているのはオリンピックに出場するように一流選手なので、その1%でも結果として大きな違いが出るのかもしれません。
100m走とかゼロコンマ何秒以下の争いとなったりすることも普通にありますからねぇ。
今回の研究でも指摘していますが、パフォーマンスの変動に与えるその他の要因としては、
・才能
・メンタル
の2つがやはり大きいようです。
つまり、練習によって埋められない差は、この2つが大きいということになります。
確かに、たくさん練習したからといって、メッシのようなドリブルができるかというと、そういうわけにはいかないですからねぇ。
ただ、才能の部分はどうしようもありませんが、メンタルの部分は改善の余地がありそうです。
サッカー選手のメンタルヘルスについて調査した研究によると、抑うつ度は一般人と同じくらいだったと報告されているので(Junge & Feddermann-Demont, 2016)、今後は一流アスリート向けのメンタルトレーニングが普及してくるかもしれません。
私も関心のある分野なので、知識を深めていきたいです。
参考文献:
Junge, A., & Feddermann-Demont, N. (2016). Prevalence of depression and anxiety in top-level male and female football players. BMJ open sport & exercise medicine, 2(1), e000087.
Macnamara, B. N., Moreau, D., & Hambrick, D. Z. (2016). The relationship between deliberate practice and performance in sports: A meta-analysis. Perspectives on Psychological Science, 11(3), 333-350.