メンタルヘルスの問題を扱うときには、それぞれの精神疾患のリスクを理解しておくことが重要ですが、死亡率の高い精神疾患としてはどのようなものが存在するのでしょうか。
文献
このことについて調べるために、World Psychiatryに掲載されていた論文を読んでみました。
Chesney, E., Goodwin, G. M., & Fazel, S. (2014). Risks of all‐cause and suicide mortality in mental disorders: a meta‐review. World psychiatry, 13(2), 153-160.
こちらは2014年のオックスフォード大学の論文で、精神疾患と死亡率の関係について調べた20件のメタ分析(対象者170万人以上)をまとめています。
メタ分析とは、関連するテーマの先行研究を集めてきて、定量的に評価する手法のことで、複数の研究をまとめた結果のため、信頼性が高くなります。
この研究では、各疾患の死亡率のメタ分析をまとめられており、ネットの世界でいうと、「まとめサイトのまとめ」といった感じになっています。
結論
先に結論から言ってしまうと、以下のようなことがわかりました。
・調査された全ての精神疾患において、一般人口よりも死亡率が高かった
・多くの精神疾患の死亡率は、ヘビースモーカーと同じかそれ以上だった
・特に死亡率の高かった精神疾患は、物質使用障害(麻薬やアルコール)と摂食障害で、10~20年の平均余命の短縮が認められた
・最も自殺率が高かったのは、境界性パーソナリティ障害、摂食障害、うつ病、躁うつ病だった
なかなか衝撃的な内容となっていますね。
精神疾患のなかでは、物質使用障害と摂食障害の死亡率の高さは意識しておきたいところ。
次から具体的にみていきましょう。
結果
一般人口と比べて、各精神疾患の死亡リスクは、以下のようになりました。
・麻薬常用者 14.7
・摂食障害 5.9
・行動障害 5.0
・急性一過性精神病 4.7
・アルコール依存症 4.6
・パーソナリティ障害 4.2
・知的障害 2.8
・ヘビースモーカー 2.6
・統合失調症 2.5
・躁うつ病 2.2
・ADHD 1.9
・うつ病 1.6
麻薬常用者の死亡リスクが際立っており、確かに多くの精神疾患はヘビースモーカーよりも死亡リスクが高くなっていますね。
解釈
麻薬やアルコールなどの物質使用障害で死亡リスクが高くなっているのは、
・物質自体の体へのダメージ
・衝動性が高まることによる自殺リスク増加
という2つの影響が考えられます。
麻薬やアルコールを使用すると、本能的な欲求が強くなって、抑制が効きにくくなるため、突発的にリスクの高い行動をとりやすくなってしまうのです。
実際に、この研究でも麻薬常用者の自殺リスクは13.5倍だったと報告しています。
また、摂食障害の死亡率の高さにも目を見張るものがあります。
こちらも低栄養による体へのダメージに加えて、この研究で報告された自殺リスク16.4倍ということが死亡率の高さに影響を与えています。
摂食障害では、本人の物の考え方の歪みを修正していくため、時間がかかるうえに専門的な治療が必要になります。
私も摂食障害の専門ではないため、初診で摂食障害を担当したときは専門の医療機関を紹介するようにしています。
精神科のなかでも摂食障害を専門に扱える医師は限られているので、医療機関を受診する際には、事前に専門の医師がいるのか確認しておいたほうがよいでしょう。