以前に、「仕事への不安があっても同僚へのサポートを保つ鍵は反芻思考のコントロールにあった」という記事のなかで、筆記開示が反芻思考を改善するうえで効果的であることに触れましたが、特にどのような人にメリットが大きいのでしょうか。
このことについて調べるために、今回は2つの論文を読んでみました。
Gortner, E. M., Rude, S. S., & Pennebaker, J. W. (2006). Benefits of expressive writing in lowering rumination and depressive symptoms. Behavior therapy, 37(3), 292-303.
Lu, Q., & Stanton, A. L. (2010). How benefits of expressive writing vary as a function of writing instructions, ethnicity and ambivalence over emotional expression. Psychology and Health, 25(6), 669-684.
ちなみに、筆記開示とは、自分の感情や考えに関して、頭に浮かんだものをありのままに文字にしていくことをいいます。
文法や誤字脱字も気にせずにただひたすら書いていくというところが日記とは少し異なります。
さて、1つ目の論文はテキサス大学の研究で、90名の大学生を対象として、筆記開示を行うグループと事実を記録するグループに分けて、3日連続で20分間それぞれの課題に取り組んでもらいました。
その結果わかったことは、
・感情の抑圧レベルが高いタイプの人たちは筆記開示を行うと抑うつ度の有意な改善がみられた
となりました。
もう1つの論文はヒューストン大学の研究で、130名の大学生を対象として、次の4つのグループに分け、1週間以内に3回の課題に取り組んでもらい、心身の変化を評価しました。
①感情について筆記開示していくグループ
②物の考え方について筆記開示していくグループ
③感情と物の考え方について筆記開示していくグループ
④行動や予定を記録していくグループ(コントロール群)
結果としてわかったのは、
・物の考え方を筆記開示すると、身体症状の有意な改善がみられた
・感情について筆記開示すると、ポジティブな感情が有意に高まった
・特に、アジア人や自分の感情を他人にうまく表現できない人は効果的だった
となりました。
つまり、筆記開示のメンタル改善効果は、感情表現が苦手な人にメリットが大きく、内容としては自分の感情と物の考え方の両方を含むように書くと効果的となります。
「物の考え方ってどういうふうに書けばいいの?」と思われたかもしれませんが、具体例を出すと、
・現在のストレスイベントについて良い面と悪い面はどんなことがあるか
・そのイベントに対してどう考えているか
・そのイベントから得られる課題や機会は何があるか
・ストレス対処策にはどんなものがあるか
などになります。
普段の診察や面談では、「周りに相談するのが苦手」という方も結構いらっしゃいますが、そのような方々には今回の研究結果は朗報ですね。
誰にも相談せずに自分のメンタルを改善させられるテクニックですので、ぜひ試していただきたいところです。