2019年11月29日金曜日

パワハラ上司の心理について分析してみると、組織の構造的問題がみえてきた


誰も待ってないかもしれないけど、お・ま・た・せ!




しばらくブログを更新していなかったが、別にサボっていたわけでも、Creepy Nutsにハマっていたわけでもない。



とある産業医先でハラスメント講座を担当することになり、その準備に専念していたのだ。






メンタル全般の講演は今までに何度も行ったことがあり、ある程度要領を得ているが、ハラスメント講座は今回が初めてである。



しかも、講座は2時間もある。果てしなく長い。映画一本分も話せる内容があるだろうか。



私は、講座を開始して30分で話のネタが尽き、世間話で必死に間をつなごうとする自分の姿を想像し、不安と恐怖に苛まれた。






このままではいかん。これを乗り切るには、尋常ではないほどの労力が必要だ。ブログなんか書いているわけにはいかない。



そこで私は、血眼になって関連書籍や文献を漁り、膨大な量の情報を手に入れ、講座のために必要な知識を身につけた。



しかし、知っていることと教えられることは、次元の違う話である。知識を得たところでうまく教えられるとは限らない。



私は知識で武装したことによって得た緩い安心が不安になった。その不安に対処するためにさらに周辺の知識を増やした。無限ループである。真夜中に何度毛布を蹴っ飛ばしたことか。






結局、講座の当日まで不安がなくなることはなかったが、講座を30分で終了するという最悪のシナリオは避けることができ、2時間話し続けることができた。自分でもよくそんなことができたなと今でも感じる。



ただ、専門的な話も多く盛り込んだので、受講者の方々には認知的な負荷が大きかったかもしれない。心なしか講座が進むにつれて、現実と非現実の間を彷徨う人が増えたように感じる。もっと興味をもって聞いてもらえるようになることが今後の課題だ。






今にして思えば、講座の前にブログを書いておけばよかった。なぜなら、ブログを書けば、自分の知識を教えることに変換でき、講座の準備に役立ったからだ。「ブログなんか書いているわけにはいかない」といった当時の自分を根本から叩き直してやりたい。



そういった自戒も含めて、部下にパワハラする上司の心理について解説していきたい。






文献を調べてみてわかったのは、人間は権力を持つと変わってしまうということである。



特に問題となってくるのが、



・共感力の低下(Kraus et al., 2010)


・マキャベリズムの影響の顕在化(Wisse & Sleebos, 2016)



である。






2010年のカリフォルニア大学の研究では、200名の大学職員、106名の大学生、81名の大学生を対象として共感力に関する3つの実験を施行した(Kraus et al., 2010)



その結果、社会的地位の低い人のほうが、



①共感力を測るテストでより高い点数を獲得

②相手の感情をより正確に読み取る

周りの筋肉の動きから感情をより正確に推測


ということがわかったのだ。



どうもこれは脳機能レベルで変化が起きているようで、2016年のアリゾナ州立大学の研究では、社会的地位が低い人ほど行動を観察しているときの脳波のμ律動の抑制が強かったということが報告されている(Varnum et al., 2016)。



μ律動の抑制は、共感力を司っているミラーニューロンと関連している。そのため、社会的地位が低い人ではミラーニューロンが活発に働き、共感力が高いことが示唆されているのだ。






では、出世して地位や権力を持つようになってしまった人はどうすればよいだろうか。



それは、共感力を鍛えるしかないだろう。



先行研究では、以下の3つの方法で共感力が高まることが示唆されている。





・小説を読む(Mar et al., 2009)


・ザラザラしたものに触れる(Wang et al., 2016)



瞑想でいま現在のことに集中できるようになったり、小説を読んで登場人物に感情移入したりすることで、共感力が高まりそうなことは想像できるだろう。



ただ、ザラザラしたものに触れて共感力が高まるとはどういうことなのだろうか。



これはザラザラしたものに触れることで少し不快な気分になることが関連しているようである。自分が少し不快な気分になることで、相手のネガティブな感情に反応しやすくなるというわけだ。実際の脳波測定でもそのような結果が得られたそうである。



ちなみに、この研究ではザラザラしたものとして、スクラブ入りのハンドソープと紙やすりが使われている。共感力を高めたい方は実践してみてはいかがだろうか。






さて、ここまで権力によって共感力が低下するということについてみてきた。



しかし、権力をもった人全員がハラスメントをするわけではないことを考えれば、その他の要因もありそうである。



もう1つの要因として考えられるのが、ダークトライアドである。



ダークトライアドとは、組織を悪影響を与えると考えられている3つのパーソナリティ傾向の総称である。



その3つとは、



サイコパシー:良心の呵責がなく、反社会的


ナルシシズム:自尊心が強く、利己的


マキャベリズム:他人を操作し、目的のためには手段を選ばない



といったものである。



このようなダークトライアドは、ハラスメントと関連することが先行研究で報告されている(Baughman et al., 2012)。






さらに、ダークトライアドが地位権力をもつようになると、やっかいなことになる。



2016年のフローニンゲン大学の研究では、地位権力がマキャベリズムとハラスメントの関係を仲介していると指摘している(Wisse & Sleebos, 2016)



つまり、地位権力が高くなると、マキャベリズムがハラスメントに与える影響が顕在化してくるのだ。



パワハラについて扱った著書「クラッシャー上司」の冒頭では、部下を5人潰して役員になった人物が紹介されているが、まさにそれはマキャベリズムの影響が顕在化したことを物語っているだろう。






では、こういった人達に我々はどのように立ち向かっていけばよいだろうか。



参考になるのが、2016年のハイファ大学のレビュー論文である(Cohen, 2016)。



この研究では、ダークトライアドと非生産的職務行動の関連についてレビューを行っている。



非生産的職務行動とは、組織の目標に反する行動であり、仕事の手抜きからハラスメントまで幅広く該当する。



そこで指摘されているのが、



・ダークトライアドは非生産的職務行動と関連している


・ただし、その関係は組織の方針と責任感が仲介している



ということだ。






つまり、ダークトライアドと非生産的職務行動は関連しているのだけれど、組織の方針がしっかりしていたり、ハラスメントを起こしたときにどんな重い責任が伴うのか理解していたりすれば、その関連は弱められるということである。



これを実践するためには、トップがハラスメント防止に関するメッセージを発信したり、就業規則などでルールを明確化したり、専門家を招いて研修を行ったり、ハラスメントが起きたときの対応を周知したりすることが有効だろう。



対策としては一般的なものだが、その理由が今回ご紹介した研究で明確になった後では、取り組み方の姿勢も変わってくるはずである。



ハラスメントへの理解を深めて、対策につなげてほしい。






みんなちがって、みんないい!!