2018年8月11日土曜日

コクラン共同計画のメタ分析で判明した、うつ病からの職場復帰を促進する介入方法


先日、「職場復帰支援は復職までの期間を短縮させる効果はそれほどないが、職場への連絡は意外と重要だった」という記事を書きましたが、その他にも職場復帰を促すような介入方法はあるのでしょうか。


このことについて調べるために、2014年にコクラン共同計画が行った論文を読んでみました。

Nieuwenhuijsen, K., Faber, B., Verbeek, J. H., Neumeyer‐Gromen, A., Hees, H. L., Verhoeven, A. C., ... & Bültmann, U. (2014). Interventions to improve return to work in depressed people. The Cochrane Library.


コクラン共同計画というのは、エビデンスに基づいた質の高い医療情報を提供するために設立された組織で、今までの研究を定性的にまとめた系統的レビューや定量的にまとめたメタ分析を専門的に扱っています。


今回の研究でも、うつ病患者への復職支援介入に関するランダム化比較試験を検索し、条件の合った23の文献(N = 5,996)において、休職期間の変化に関するメタ分析を行っています。


このなかで復職支援介入の方法として見つかったのは、

・職場介入(仕事の調整、サポートの強化、EAP(事業場外資源)によるコーチング・指導)
・抗うつ薬
・心理療法
・抗うつ薬+心理療法
・運動

の5つで、それぞれについて効果量を計算しています。

ちなみに、効果量の目安としては、0.3で「小さい」、0.5で「中くらいの」、0.8で「大きい」効果があるとされています(Cohen, 1988)。


結果について順番にみていくと、

・職場介入は臨床治療のみと比較して休職期間を有意に減少させた(効果量 -0.40 (95%CI -0.66 to -0.14))

・抗うつ薬のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)とSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)では、どちらのほうが効果があるのかははっきりしなかった

・電話またはオンラインの認知行動療法は通常治療と比較して有意に休職期間を減らした(効果量 -0.23 (95%CI -0.45 to -0.01))

・抗うつ薬+心理療法は、質の低い研究では通常治療と比べて休職期間は減少しなかったが、質の高い研究では有意な減少がみられた

・筋トレはリラックスと比較して休職期間を有意に減らしたが、エアロビでは減らなかった(効果量 -1.11 (95%CI -1.68 to -0.54), -0.05 (95%CI -0.36 to 0.24))

ということになりました。


今回の研究では、職場介入によってそれなりの効果量がみられていますね。

おそらく対象疾患をうつ病に絞った影響でしょう。

自宅療養によって体調が改善しても、職場の環境から受けるストレスが変わらなければ、職場復帰したときにまた体調を崩しやすくなってしまいます。

そういう意味で、職場介入による環境調整は重要となるでしょう。



また、職場復帰を促進しやすい抗うつ薬は存在するのかということも非常に興味深いテーマですが、現在のところ、SSRISNRIで職場復帰に有意な差はみられないようですね。


現状としては、職場復帰を考えた場合も自身の病状に応じて主治医と相談しながら薬剤調整をしていくのがよいでしょう。



認知行動療法とは、物の考え方をストレスに対処しやすいように修正していく心理療法のことで、以前から抑うつ気分の改善効果があることが示されていますが(Cuijpers et al., 2013)、今回の研究結果で職場復帰にも有効であることがわかりました。


特にここ最近の研究では、パソコンやオンラインの認知行動療法にも抑うつ気分や不安の改善効果があり、対面での認知行動療法と同程度の効果があることが報告されています(Andrews et al., 2010Carlbring et al., 2018)


利用者にとっても敷居が低くなってきていますので、興味のある方はスマホのアプリなどでまずは認知行動療法がどのようなものか試してみて、日常的に取り入れるかどうか検討してもよいかもしれません。


また、研究の質にばらつきはありますが、運動の種類によって休職期間に違いがみられたのは面白いですね。

今回の結果からは、心肺機能を鍛えるよりも筋力を鍛えたほうが復職に有効ということになります。

「ダンベルは友だち」をモットーに、定期的に筋トレをやっている私にとっては嬉しい限りです。


以上をまとめると、うつ病からの職場復帰を促進するには、通常治療に加えて、職場介入、心理療法を行うと効果的であり、筋トレも休職期間を減らす可能性があるということになります。

参考になればご活用ください。


参考文献:
Andrews, G., Cuijpers, P., Craske, M. G., McEvoy, P., & Titov, N. (2010). Computer therapy for the anxiety and depressive disorders is effective, acceptable and practical health care: a meta-analysis. PloS one5(10), e13196.
Carlbring, P., Andersson, G., Cuijpers, P., Riper, H., & Hedman-Lagerlöf, E. (2018). Internet-based vs. face-to-face cognitive behavior therapy for psychiatric and somatic disorders: an updated systematic review and meta-analysis. Cognitive behaviour therapy47(1), 1-18.
Cohen, J. (1988). Statistical power analysis for the behavioral sciences 2nd edn.
Cuijpers, P., Berking, M., Andersson, G., Quigley, L., Kleiboer, A., & Dobson, K. S. (2013). A meta-analysis of cognitive-behavioural therapy for adult depression, alone and in comparison with other treatments. The Canadian Journal of Psychiatry58(7), 376-385.