多くの産業保健の現場で、復職支援は主な業務の1つとして取り組まれているかと思いますが、科学的に効果が証明されている復職支援方法は存在するのでしょうか。
このことについて調べるために、Occupational and Environmental Medicineに掲載されていた論文を読んでみました。
Mikkelsen, M. B., & Rosholm, M. (2018). Systematic review and meta-analysis of interventions aimed at enhancing return to work for sick-listed workers with common mental disorders, stress-related disorders, somatoform disorders and personality disorders. Occup Environ Med, oemed-2018.
こちらは2018年のデンマークのオーフス大学の研究で、今までに行われた復職支援介入に関するランダム化比較試験を対象として系統的レビューとメタ分析を行い、どのような介入が効果的なのかについて調査しています。
関連するテーマの先行研究をまとめて、定性的に評価したものが系統的レビュー、定量的に評価したものがメタ分析となるので、どちらも信頼性の高い研究となります。
さらに、今回扱った先行研究はランダム化比較試験というエビデンスの高い介入研究に限定しているため、よりいっそう信頼性は高くなっています。
検索してヒットした文献は3,777で、そのなかから条件に合うものを絞り込んで、42の文献(対象者38,938名)の系統的レビューと32の文献(対象者9,459名)のメタ分析が行われました。
メタ分析での主な評価項目は復職までの期間ですが、それが示されていなかった研究については復職者の割合を用いて効果量を計算しています。
ちなみに、効果量の目安は、0.3で「小さい」、0.5で「中程度」、0.8で「大きい」効果があるとされています。
結果はどうだったかというと、
・復職支援介入の効果量(Glass's Δ)は0.14 (95%CI 0.07-0.22)
となりました。
思わず「小さっ!」と言いたくなってしまいますね。これじゃあ、猫の額、雀の涙、話出すと人の悪口ばかり言ってる人並みに小さいじゃないですか。
経験的にはもう少し大きいかと思っていただけにちょっと残念な結果です。
ただ、これは主な評価項目を復職までの期間とした結果であって、復職後の再休職率などについては評価されていません。
早く復帰するよりも、その後しっかりと働けることのほうが大事ですから、このあたりの解析結果がどうなるのかは気になるところです。
段階的復職は、結果的にトータルの休職期間を減らし、収入を上げ、失業もしにくくなるという先行研究もあるので(Bethge, 2016)、職場復帰支援が全く効果がないわけではないと思います。
また本題に戻ると、今回取り上げた研究では、復職期間や復職者の割合を改善させたのは、どのような復職支援だったのか調べるために回帰分析を行っています。
ここで有意な影響がみられたのは以下の3つです。
・介入方法として職場への連絡を行っている
・複数の介入方法を行っている
・対象疾患がストレス関連障害である(うつ病、不安障害、身体症状症、パーソナリティ障害を含まない)
そして、これらに加えて著者は系統的レビューの結果を受けて、
・段階的復職
が効果的であると指摘しています。
つまり、上記の4点が含まれていると、復職支援がより効果的に行えるということになります。
特に意外だったのは、職場への連絡が復職支援に有効ということです。
産業医面談でも療養中に職場と定期的に連絡をとりましょうとお伝えすることはありますが、今までは情報共有を主な目的として考えていました。
しかし今回の研究では、職場への連絡自体が結果的に復職期間や復職者の割合の改善につながるということですね。
これからの産業医面談では、復職支援の1つとして職場への連絡が重要であることを伝えていけそうです。
参考文献:
Bethge, M. (2016). Effects of graded return-to-work: a propensity-score-matched analysis. Scandinavian journal of work, environment & health, 42(4), 273-279.