2020年7月18日土曜日

新型コロナの大半が無症状・軽症の理由、それは過去に引いた風邪と関連しているかもしれない


新型コロナで世界中に多くの死亡者が出ている一方、感染者の大半が無症状・軽症で済んでいるのはなぜか。



誰しも気になる疑問だと思う。



今までは各々の健康水準やウイルス毒性の違いによるものかと思っていたが、どうもそれだけではないようである。






最近のCellやNatureといった有名科学雑誌を見ると、T細胞免疫が取り上げられているのだ(Grifoni et al., 2020; Bert et al., 2020)。



T細胞とは、免疫における司令塔的な役割を果たす細胞であり、ウイルスや細菌などの病原体を直接攻撃したり、他の免疫細胞を誘導して病原体を攻撃させたりしている。



サッカーのトップ下、オーケストラの指揮者、映画の主役兼監督のように、T細胞は免疫において欠かせない存在である。



ただ、このT細胞は一度その病原体にかかったことがないと、十分な効力を発揮しないという側面がある。



日本がフランスW杯で全敗して世界の強さを知った後、入念な対策を講じて日韓W杯で決勝トーナメントに進めたのと同じようなことである。






しかし、ここ最近になってT細胞が新型コロナに対して良い仕事をしていることがわかってきた。



新種のウイルスなのにどうして機能しているかというと、風邪の原因となるような他のコロナウイルスに感染したときの免疫が新型コロナに対してもうまく働いているようなのである。



野球をやっている人がソフトボールをやってもそれなりうまくできるのと一緒だろう。



このような働きは交差反応と呼ばれるが、2020年のCellに掲載された研究によると、新型コロナに曝露されていない人々の40〜60%にT細胞反応がみられたことが報告されている(Grifoni et al., 2020)。






つまり、約半数の人々が新型コロナに対してT細胞反応があるということになる。これは思っていたよりも大きな数字だ。



その他の研究を見ると、新型コロナ感染から回復したのに抗体が認められなかったケースがあったが、そのときにもこのT細胞反応がしっかり働いていたと報告している(Sekine et al., 2020; Gallais et al., 2020)。



どうやら、我々はT細胞の交差反応によって新型コロナが無症状・軽症で済んでいる可能性もあるようだ。



過去に引いた風邪も意外と役に立っているのかもしれない。