2020年5月24日日曜日

仕事に適応できる発達障害と適応できない発達障害、その違いは何か!?


職場の発達障害が注目されるようになって久しいが、依然として苦労されている方々も少なくないのではなかろうか。



実際に産業医面談していても、発達障害のケースはよく目の当たりにする。



職場で空気が読めなかったり、細かいことにこだわって仕事が進まなかったり、不注意でケアレスミスを繰り返したりしているのだ。



このようなケースは主治医に診断されていないことも多く、メンタル不調を来した背景として発達障害がベースとして隠れていることは枚挙に暇がない。



かく言う私も、職場のメンタルヘルスに関する論文を毎週チェックして新発見に一人ウキウキしており、きっと発達障害の傾向があるのだろう。






発達障害は治るものではないので、メンタル不調を来したケースに関しては業務内容を変更したり、周囲のサポートを手厚くしていくなどの環境調整が基本となる。



しかし、世の中を見回してみると、イチロー、スティーブ・ジョブズ、米津玄師などのように発達障害を抱えていても社会で活躍している有名人は数多く存在する。



当然彼らは自分の特性を生かせる場があったという環境要因も大きく影響しているが、発達障害の中でも仕事に適応しやすいタイプがあるのかどうかといった個体要因は気になるところである。



このような個体要因の存在がわかれば、職場不適応の高リスク者に対してよりサポートを充実させるなどの対策も取りやすくなるだろう。






では、どのような発達障害が職場不適応に陥りやすいのだろうか。



参考になるのは、2020年の国際医療福祉大学の研究である(Suzuki et al., 2020)。



こちらの研究では、2,049名の日本人労働者を対象として、発達障害のなかの自閉症スペクトラム障害(ASD)を調べる質問紙(AQ-Short)と抑うつ度を調べる質問紙(K6)に答えてもらい、ASDのどのような要素が抑うつ度につながっているのか回帰分析している。



ちなみにASDとは、大雑把に言うと、世間一般でよく言われる「アスペ」のことである。



空気が読めず、細かいところにこだわりがあるようなタイプがASDに当てはまる。






そして、AQ-Shortで調べられているASDの要素は以下のようなものである。



・社会的スキルの乏しさ


・注意の切り替えにくさ


・数字やパターンへの興味


・ルーティン好き


・想像力の乏しさ



つまり、この研究ではこれら5つの項目が抑うつ度にどの程度影響を与えているのか調べたというわけだ。



どの項目が影響力が大きいのか気になってくるだろう。



さっそく、回帰分析の結果をみてみよう。



・社会的スキルの乏しさ     β  0.127     < 0.001


・注意の切り替えにくさ        β   0.153      < 0.001


・数字やパターンへの興味      β   0.088      < 0.001


・ルーティン好き       β   0.163      < 0.001


・想像力の乏しさ      β   -0.008      p = 0.752






どうやら、想像力の乏しさ以外の4つの項目は有意に抑うつ度に影響を与えるようだ。



特に回帰係数を見てみると、ルーティン好きや注意の切り替えにくさが抑うつ度への影響が大きい。



確かに、ルーティンにこだわって注意が他のことに向けられないと、仕事は進まないし、周りからは白い目でみられるし、職場で大きな支障になることは間違いないだろう。



ある程度の柔軟性をもって、優先度の高いものに注意を向けられるかどうかが職場適応のカギとなりそうだ。



私も毎日のルーティンが多かったり、納得がいくまで同じことをずっとやり続けてしまったりする傾向があるので、気をつけていきたいところである。