2020年10月24日土曜日

困ったときに助けを求められない?それはスティグマのせいかもしれない

 


スティグマという言葉をご存知だろうか。



語源はギリシャ語で犯罪者や奴隷などにつけられる烙印に由来している。



現在では、一般と異なることから差別・偏見の対象となる属性やそれに伴う負のイメージのことを指している。



つまり、スティグマとはネガティブなレッテルのことである。





ではどうしてスティグマの話を出したのか。



それはスティグマが援助希求を妨げるという話を聞いたからである。



メンタル関連のスティグマがあると、自分が調子を崩したときも「自分は弱い人間なのではないか」「ここで周りの助けを求めたら不当に扱われるのではないか」などと考えて、援助希求ができないというのである。



確かにそれは一理ある。



私も過酷な研修医時代に調子が悪くても、「これくらい乗り越えないと医者としてやっていけないのではないか」と考えて、周囲にあまり相談できなかった経験がある。



医療従事者ほど自身の不調の相談をしにくいということは、起きていても不思議ではない。



果たして実際のところはどうなっているのだろうか。





このことに関して参考になるのが、2014年のキングスカレッジ・ロンドンの研究である(Clement et al., 2014)。



この研究では、スティグマと援助希求の関連について調査した先行研究144件(対象者90,189名)を系統的にレビューしている。



ずいぶん多くの研究をまとめてくれていて参考になる。現時点でスティグマと援助希求の関連についての神論文と呼べるだろう。




この研究で分かったことをまとめると以下のようになる。



・スティグマは援助希求に対して小〜中程度の阻害作用がある(d = -0.27)


・特に、自分自身に関するスティグマ(d = -0.23)や治療に関するスティグマ(d = -0.41)の影響が大きい


・アラブ系の学生(d = -1.21)やアジア系アメリカ人(d = -1.20)など人種のマイノリティでも影響が大きい


・スティグマは援助希求を妨げる障壁として4番目に高い


・特に、軍隊では最も高い障壁となっており、50%の医療従事者は援助希求する際の情報開示に抵抗を感じている





やはり予想通り、スティグマは援助希求を妨げる要因となっているようである。



特に、自分自身や治療に関するスティグマを持っている場合や人種のマイノリティ・軍隊・医療従事者では影響力が大きくなることは注目すべきポイントである。



このような高リスク集団では、自ら援助希求することが少ないため、周囲からサポートを提供していったり、定期的に相談の場を設けるなどの工夫も必要になってくるかもしれない。





また、自ら援助希求できない方々は自分の中にスティグマがないかチェックしてみると、よりセルフケアしやすくなるかもしれない。



普段復職支援の現場で働いていると、休職に至るケースの多くで援助希求ができていない。



ここを改善することがより長く健康的に働くためのキーポイントになっていることは間違いない。



個人的にも職場的にも、援助希求しやすい状態を作っていただけると幸いである。