2019年3月30日土曜日

安静時心拍数は反社会的行動と関連しているというペンシルベニア大学の研究


ちょっと意外に思うかもしれませんが、安静時心拍数は、反社会的行動の最も再現性の高い生物学的指標だということが先行研究で示唆されています(Ortiz & Raine, 2004)。


実際のところ、その関連性はどの程度のものなのでしょうか。




文献


このことについて調べるために、Aggression and Violent Behaviorに掲載されていた論文を読んでみました。

Portnoy, J., & Farrington, D. P. (2015). Resting heart rate and antisocial behavior: An updated systematic review and meta-analysis. Aggression and violent behavior22, 33-45.


こちらは2015年のペンシルベニア大学の論文で、安静時心拍数と反社会的行動の関連について調べた115件の先行調査をメタ分析しています。


メタ分析とは、関連するテーマの先行研究を集めてきて、定量的に評価する手法のことで、複数の研究をまとめた結果であるため、信頼性が高くなります。


メタ分析では「効果量」という標準化された数値を用いて、効果の大きさを評価します。


この研究で用いられた平均の差の効果量の目安としては、0.2で「小さい」、0.5で「中程度」、0.8で「大きい」効果があるとされています(Cohen, 1988)。



また、反社会的行動としては、以下のようなものが研究対象に含まれました。


・攻撃性

・怒り

・暴力

・サイコパス性

・行為障害

・問題行動



本人の傾向から実際に起こした行動まで様々なものが含まれていますね。


このあたりは研究の異質性(ばらつき)が気になるところです。



結果


では、どのような結果になったのかみていきましょう!

・安静時心拍数が低いと、反社会的行動が増える傾向にあった(効果量 -0.20, p < 0.001)

・性別、年齢、研究デザイン、共変量の数は関係していなかった

・ただし、研究の異質性は大きい(I2乗 77.15%)



効果量は小さいものの、安静時心拍数と反社会的行動には関連がみられています。


身近な身体的指標が、行動面に影響を与えているとは面白い結果ですね。



解釈


では、どうして安静時心拍数と反社会的行動に関連がみられたのかというと、


・安静時心拍数が低い

⇒自律神経の活働性が低い

⇒恐怖に反応しにくい

⇒問題行動への抑制がきかない

⇒反社会的行動をとりやすい


といった仮説が考えられているようです(Raine, 2002)。


まぁ、確かに一理あるかもしれないですね。


ただ、スポーツ選手などは体を鍛えていることで、安静時の心拍数が低い傾向にあるため、そのあたりをしっかり調整した解析結果ではどうなるのか今後調査していく必要はあるでしょう。



個人的には、私の安静時心拍数が40くらいとかなり低めなので、自分の気づかないところで反社会的な振舞いをしているのではないかとちょっと不安になってしまいました笑


今後の研究にも注目していきたいです。



参考文献:
Cohen, J. (1988). Statistical power analysis for the behavioral sciences 2nd edn.
Ortiz, J., & Raine, A. (2004). Heart rate level and antisocial behavior in children and adolescents: A meta-analysis. Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry43(2), 154-162.
Raine, A. (2002). Annotation: The role of prefrontal deficits, low autonomic arousal, and early health factors in the development of antisocial and aggressive behavior in children. Journal of Child Psychology and Psychiatry43(4), 417-434.