この前「睡眠が必要な理由-グリンパティック・システム-」という記事を書き、睡眠中に脳内で行われている活動について解説しましたが、そもそも私たちはどうして眠くなるのでしょうか。
文献
このことについて調べるために、Current Topics in Medicinal Chemistryに掲載されていた論文を読んでみました。
Huang, Z. L., Urade, Y., & Hayaishi, O. (2011). The role of adenosine in the regulation of sleep. Current topics in medicinal chemistry, 11(8), 1047-1057.
こちらは2011年の大阪バイオサイエンス研究所の論文で、睡眠制御のメカニズムについて調べた先行研究のレビューを行っています。
そして、眠気の正体としてわかってきたのが、アデノシンという物質です。
アデノシンとは
アデノシンは、DNAなどを構成要素であったり、細胞にエネルギーを供給するATPの代謝産物であることが今まで知られていたのですが、最近は眠気をもたらす中心的な物質として注目されているのです。
どのような仕組みになっているかについて簡単に説明すると、
・起きている間の細胞活動によってATPが代謝される
⇒ATPの代謝産物であるアデノシンが徐々に脳内に蓄積していく
⇒アデノシンが受容体にくっつく
⇒受容体からのシグナルで脳の覚醒物質であるヒスタミンの分泌が低下する
⇒眠気が出る
⇒睡眠によって脳内のアデノシン濃度が低下する
というような感じになっています。
起きている間にアデノシンが徐々に溜まっていき、ある程度の段階まで来たところで眠気が出て睡眠中にアデノシンが減るというのは、鹿おどしみたいな仕組みですね。
アデノシンをブロックすれば眠気は出なくなるの?
眠気にアデノシンが大きく関わっていることがわかったかと思いますが、「アデノシンをブロックすれば眠気なく過ごせるんじゃね?」と考えられた方々もいらっしゃるでしょう。
まさしくその通りで、実はアデノシンをブロックする物質は、みなさんの身近にあります。
さあ、何でしょうか?
ちょっと考えてみてください。
いきなり正解を見ちゃだめですよ。
答えはわかりましたか?
それでは、正解を発表しますよ。
正解は、コーヒーの成分であるカフェインです。
カフェインは、アデノシンの受容体をブロックすることで、脳の覚醒物質であるヒスタミンの低下を防いでいるんですよ。
それによって、コーヒーを飲むと、集中できるというわけです。
これで明日から誰かとコーヒーを飲むときに話せるウンチクが増えましたね。
最近の研究では逆にアデノシンの受容体を刺激して眠気を催すような眠剤の開発も研究されているそうですが、アデノシンやその受容体は脳の部位によって働きが異なっていたりするため、実現化するためにはまだハードルが高いようです。
今後の研究にも期待したいところです。