2019年4月24日水曜日

顔の表情から抑うつ状態を評価するポイントがわかったという話

精神科や産業保健の現場で働いていると、調子が悪い人は顔を見ただけで何となくわかってきますが、具体的には顔の表情にどのような変化が起こっているのでしょうか。




文献


このことについて調べるために、Journal of Affective Disorderに掲載されていた論文を読んでみました。

Fiquer, J. T., Boggio, P. S., & Gorenstein, C. (2013). Talking bodies: nonverbal behavior in the assessment of depression severity. Journal of affective disorders150(3), 1114-1119.


こちらは2013年のサンパウロ大学の論文で、40名のうつ病患者を対象として、経頭蓋電気刺激(tDCS)を行った前後の非言語的な行動(主に顔の表情)について調べています。



tDCSでは、頭蓋骨の上から微弱な電気を流して脳を刺激します。


臨床的にはあまり浸透していない治療方法なので、私もtDCSを経験したことはありません。


頭に電気を流すというと、怖そうなイメージがあるかもしれませんが、先行研究では抑うつ症状の改善に効果があることが報告されているようです(Boggio et al., 2008)。


この研究では2週間にわたって、2mAの電流を毎日20分間流したところ、精神科医の評価や自記式の質問紙で、被験者の抑うつ症状に有意な改善がみられたそうです。



結論


では、この研究でどのようなことがわかったかというと、「抑うつ症状」と「治療への反応性」という2つの項目に関連する表情の変化が明らかになりました。


それぞれどのようなものだったかみていきましょう。


抑うつ症状

・左右非対称な笑顔が多い

・眉を上げる動きが少ない

・ジェスチャーが少ない



治療への反応性

・頭のうつむきが減る

・口角が下がることが減る

・眉をひそめることが減る

・泣くことが減る

・うなづきが増える

・アイコンタクトが増える



どうやら、抑うつ症状に関連する表情変化と治療への反応に関連する表情変化は異なるようですね。



解釈


つまり、うつ病の重症度を判断するときは、笑顔、眉、ジェスチャーに着目し、治療への反応性をみるときには、頭や眼の動き、眉、口角に着目することが役に立ちそうです。


治療前後の時系列な変化を調べたことで、抑うつ症状が悪いときと良くなるときで、顔の変化する部位が異なることがわかったのは興味深いですね。


もっとも、tDCSという特殊な治療を行っていること、対照群がないこと、サンプル数が比較的少ないことなどは研究の限界としてありますが。



頭や眼の動きに関しては、「うつ病に特徴的な頭の動き」という記事で触れましたが、眉、口角、ジェスチャーなどは新たな発見でした。


今後の診察や面談の際には、注意してみていきたいです。



参考文献:
Boggio, P. S., Rigonatti, S. P., Ribeiro, R. B., Myczkowski, M. L., Nitsche, M. A., Pascual-Leone, A., & Fregni, F. (2008). A randomized, double-blind clinical trial on the efficacy of cortical direct current stimulation for the treatment of major depression. International Journal of Neuropsychopharmacology11(2), 249-254.