2019年3月6日水曜日

仕事中のケガを減らすには意外とあの要因が重要だったというロベルト・コッホ研究所の研究


労災を減らしていくことは産業保健分野の大きなテーマでありますが、そもそも労災はどのような状況で発生しやすいのでしょうか。



文献


このことについて調べるために、PLOS ONEに掲載されていた論文を読んでみました。

Rommel, A., Varnaccia, G., Lahmann, N., Kottner, J., & Kroll, L. E. (2016). Occupational Injuries in Germany: population-wide national survey data emphasize the importance of work-related factors. PloS one11(2), e0148798.


こちらは2016年のドイツのロベルト・コッホ研究所の論文で、18-70歳の労働者14,041名に電話調査を行い、ここ1年間に発生した労災のリスクファクターを分析して、オッズ比を求めています。


結果


研究対象者の2.8%がここ1年間に労災を経験し、統計的に有意なリスクファクターとしては以下のようなものが判明しました。


仕事のタイプ

・農業 5.40

・専門職 3.41

・スキルが必要なサービス業 4.24

・スキルが必要な肉体労働者 5.12

・スキルが必要ないサービス業 3.13

・スキルが必要ない肉体労働者 4.97


身体的ストレス

・重量物の運搬 1.78

・不自然な姿勢 1.46

・環境のストレス 1.48


心理社会的ストレス

・仕事のプレッシャー 1.41


健康状態

・運動が週2時間以下 1.47

・肥満 1.73

・糖尿病 0.18



解釈


仕事のタイプでは、やはり体を使う職業で労災が起きやすいようです。


スキルが必要な仕事では、高度な作業を扱うせいか、若干オッズ比が高めになっています。



身体的ストレスでも、想定しやすいものが挙げられています。


日本で最も多い業務上疾病は腰痛ですが、重量物の運搬や不自然な姿勢は腰痛のリスクファクターとして有名です。



健康状態では、糖尿病があると労災のリスクが低くなっておりますが、これは職場側の配慮の影響もあると考えられます。


つまり、糖尿病のリスクがある人は危険が伴う業務に就かせないということです。


血糖コントロールが不良な場合、生活習慣が乱れていたり、倦怠感や疲労感も出やすいため、職場の安全配慮義務が就業制限をかけることがあるのです。


ドイツという先進国で行われた調査であるため、その可能性は十分にあるでしょう。



最も意外だったのは、心理社会的ストレスのところです。


以前に「夜勤では労災が27.9%増える」という記事を書きましたが、今回の研究では、労働時間やシフト勤務は統計的に有意となりませんでした。


考えられる原因としては、


・統計的に有意となっている仕事のプレッシャーの影響が大きかった


ということです。



どういうことかというと、労働時間やシフト勤務と労災の関係の背景には、仕事のプレッシャーという存在が隠れており、一緒に統計にかけると、仕事のプレッシャーの影響に引っ張られて、労働時間やシフト勤務が有意とならないという現象が起きるのです。


例えると、飲酒量が肺がんと関連しているかと思ったら、たくさん飲酒する人はタバコもよく吸う傾向があるため、その影響が現れていたということに近いです。


論文著者も同様のことを考察で指摘しています。


今までは労働時間やシフト勤務が直接的に労災に及ぼす影響が強いと考えていましたが、その背景には仕事のプレッシャーが大きな存在として潜んでいたことは新しい発見でした。


労災を減らしていくためには、労働時間やシフト勤務だけでなく、作業スケジュール、人間関係、客先対応の状況などを情報収集して、仕事のプレッシャーがどの程度かかっているのかも把握していくことが重要になりそうです。