産業医面談を行っていると、悲惨な事故や自殺の現場を目撃するなどの一時的なストレスイベントで休職される方がいらっしゃいますが、その影響力はどの程度持続するものなのでしょうか。
文献
このことについて調べるために、International Archives of Occupational and Environmental Healthに掲載されていた論文を読んでみました。
Hansen, M. B., Berthelsen, M., Nissen, A., & Heir, T. (2018). Sick leave before and after a work-place targeted terror attack. International archives of occupational and environmental health, 1-9.
こちらは2018年のNorwegian Centre for Violence and Traumatic Stress Studiesの論文で、ノルウェーの政府職員2,057名を対象として、2011年にノルウェー政府庁舎で起きた爆破テロの前後3年間における休職率の変化を調査しています。
このテロでは8名の方が亡くなっており、日本政府も声明を発表するなど、職場で起きたストレスイベントとしては最大級のものでしょう。
結果
この研究でどのようなことがわかったかというと、
・テロの現場にいた職員は、その後2年間の休職率は有意に高い (1年目 1.31 (95%CI 1.058 to 1.635), 2年目 1.36 (95%CI 1.082 to 1.749))
・しかし、3年目では休職率に有意な差はみられなくなる
・テロの現場にいなかった職員は、テロの前後で休職率に有意な変化はみられなかった
となりました。
考察
この結果をふまえると、テロのような究極のストレスイベントを経験すると、2年程度は職場の休職に影響を与えると考えておいたほうがよさそうですね。
この研究では男女別の解析も行っているのですが、2年目で休職率が有意に高かったのは女性のみとなっていました。
つまり、性別では女性のほうがストレスイベントの影響が長く続きやすいということになります。
以前にご紹介した「PTSDのリスクファクター」では、自覚的なサポートのなさが上位に入っており、ストレスイベント後のケアはしっかり行っていきたいところです。
予後について聞かれたときは、今回の研究結果などを参考情報としてお伝えすることを検討していきたいです。