人生にミスや失敗はつきものであり、人間関係のトラブルは気をつけていても避けられないこともあります。そこで、人間関係を効果的に修復するために、科学的に正しい謝罪方法について調べてみました。
まずはどのような状況で和解が成立しやすいのかについて考えてみましょう。
このことに関しては、2004年のオハイオ州立大学の研究が参考になります(Tomlinson et al., 2004)。
こちらの研究では、以下のような和解が成立しやすい5つの状況が判明しました。
・信頼関係の修復のためには、謝らないより謝ったほうがよい
・謝罪が誠実だと受け止められる
・過ちを犯した後すぐに謝る
・今までの人間関係が良好
・今回の過ちが単発的なもので、繰り返す可能性が低い
「謝らないより誤ったほうがよい」のは当たり前だと思うかもしれませんが、実は先行研究のなかには、謝罪は被害者にとって価値がなく、過ちに値する「補償」が大事だと主張する論文も存在しています(Farrell & Rabin, 1996)。
確かに、安易な謝罪では相手の攻撃性は減らせても不快感が残るといったことも報告されており(Kubo et al., 2012)、一理ある考えですが、この記事では効果的な謝罪方法に焦点を絞っているので、この辺りの議論については今回は扱いません。
この和解が成立しやすい5つの状況ですが、過ちの大きくなると、当然和解はしにくくなるのですが、その影響を緩和する要因としては4番目の「今までの人間関係が良好」が大きく働くようです。
そのため、謝罪のための小手先のテクニックだけでなく、普段からの人間関係を良好にしておくことも大切です。
では、次にダメな謝罪方法についてみていきましょう。
このことについては、2014年のスタンフォード大学の研究が参考になります(Schumann, 2014)。
こちらの研究では、4つのダメな謝罪方法が紹介されています。
・正当化:「仲間外れにしたのは悪かったと思っている。でも、それにはちゃんとした理由があるんだ」など
・逆ギレ:「君がもっと僕に自由を与えてくれていたら、こんなことにはならなかったんだ」など
・弁解:「とても忙しくて急いでいたんだ」など
・矮小化:「ごめん、ただの冗談だよ」など
どれもよく聞く謝罪ですが、効果はないんですね。
これらの謝罪は相手に配慮することよりも、自分のことを守ることに意識が向いていて良くないようです。
つい言ってしまいがちなところでもあるため、気をつけたいですね。
それでは、科学的に効果のある謝罪についてみていきましょう。
このことに関しては、2016年のオハイオ州立大学の研究が参考になります(Lewicki et al., 2016)。
こちらの研究では、効果的な謝罪として以下の6つが挙げられています。
・後悔の表現:「ミスを犯してしまったことを申し訳なく思います」など
・過失が起きた理由の説明:「私が手続きに不慣れだったのが原因でした」など
・責任を認める:「自分の行為に責任があります」など
・再発防止の表明:「もう二度と同じことは繰り返しません」など
・解決策の提案:「不備のあった箇所に関しては修正します」
・許しを求める:「どうか私のミスをお許しください」
アメリカの研究なので日本では少し異なるかもしれませんが、このなかで最も効果があったのは「責任を認める」で、その次に「解決策の提案」「過失が起きた理由の説明」の順となっていました。
このあたりを組み合わせて謝罪できると効果的のようです。
「過失が起きた理由の説明」に関しては、外的な要因を入れると言い訳のように聞こえてしまうので、自分に非があったことを説明していくのがよいでしょう。
そうすると、次に「責任を認める」ということにつながりやすく、最後に「解決策の提案」を行えば、今後の流れが前向きに発展していきやすくなります。
また、これに加えてさらに謝罪の効果を高めたいときは、「相手の期待を上回る」ことが重要です。
2013年のイスラエルのネゲヴ・ベン=グリオン大学の研究では、謝罪への期待が謝罪の効果に影響を与えることが指摘されています(Walfisch et al., 2013)。
この研究では、謝罪への期待が小さかったときのほうが、実際に謝罪したときの効果が大きかったことが報告されており、相手の期待を上回るような謝罪が効果的だと考えられます。
そのため、私が謝罪するときは相手が想定しているよりもやや大袈裟に謝るようにしています。
そうすると、相手も「そこまでしなくてもいいよ」と感じて、怒りの感情が治まることが多いです。
日常生活でどうしても謝らなければならない場面に遭遇した際は参考にしてください。
参考文献:
Farrell, J., & Rabin, M. (1996). Cheap talk. Journal of Economic perspectives, 10(3), 103-118.
Kubo, K., Okanoya, K., & Kawai, N. (2012). Apology isn't good enough: an apology suppresses an approach motivation but not the physiological and psychological anger. PloS one, 7(3), e33006.
Lewicki, R. J., Polin, B., & Lount Jr, R. B. (2016). An exploration of the structure of effective apologies. Negotiation and Conflict Management Research, 9(2), 177-196.
Schumann, K. (2014). An affirmed self and a better apology: The effect of self-affirmation on transgressors' responses to victims. Journal of Experimental Social Psychology, 54, 89-96.
Tomlinson, E. C., Dineen, B. R., & Lewicki, R. J. (2004). The road to reconciliation: Antecedents of victim willingness to reconcile following a broken promise. Journal of Management, 30(2), 165-187.
Walfisch, T., Van Dijk, D., & Kark, R. (2013). Do you really expect me to apologize? The impact of status and gender on the effectiveness of an apology in the workplace. Journal of Applied Social Psychology, 43(7), 1446-1458.