2019年1月19日土曜日

米国内科学会の研究で判明!不眠症に効果のある行動療法


精神的に不調をきたすと様々な症状が現れますが、なかでも「眠れない」ことによるダメージは大きく、休職に至ることも少なくありません。そのため、睡眠時間の確保は重要ですが、有効なセルフケアとしてはどのようなものが存在するのでしょうか。


文献


このことについて調べるために、Annals of Internal Medicineに掲載されていた論文を読んでみました。

Brasure, M., Fuchs, E., MacDonald, R., Nelson, V. A., Koffel, E., Olson, C. M., ... & Ouellette, J. (2016). Psychological and behavioral interventions for managing insomnia disorder: an evidence report for a clinical practice guideline by the American College of Physicians. Annals of internal medicine165(2), 113-124.



こちらは2016年に米国内科学会が出した論文で、不眠症への心理行動療法の介入を行った60の先行研究をメタ分析しています。


メタ分析とは、関連するテーマの先行研究を集めてきて、定量的に評価する手法のことで、複数の研究をまとめた結果なので、研究の信頼性が高くなります。



結果


この研究でどのようなことがわかったかというと、


・不眠症への認知行動療法を行うと、2.89倍寛解しやすかった


ということです。



認知行動療法


認知行動療法とは、物の見方や行動を修正していくような治療方法のことをいいます。


これがどうして効果があるかというと、眠れないことの原因としては、外部からのストレス要因だけでなく、睡眠に対する誤った考え方や行動が影響していることが多いのです。



「認知療法」を行うには専門的なサポートが必要となってくるため、セルフケアで活用するのは難しいですが、「行動療法」の部分は日常生活のなかに取り入れやすく、睡眠を改善させることができます。



実際にこの研究でも、行動療法を組み合わせることで、


・入眠までの時間が10分短縮

・中途覚醒時間が15分短縮

・睡眠効率が7%上昇

・コントロール群と比べて、主観的な睡眠の質が改善


といった効果をあげています。



不眠症への行動療法


そこで、これから不眠症への行動療法についてみていきましょう。


有名なものとしては、以下の3つがあります。


・刺激制御療法

・リラクゼーション


・睡眠制限療法




これらの具体的な方法については、2008年にペンシルベニア大学が出したガイドラインが参考になります(Schutte-Rodin, et al., 2008)。



刺激制御療法


刺激制御療法とは、簡単に言うと、布団の上では寝る以外の余計な刺激は避けるようにする方法です。


やり方は以下の通りです。


刺激制御療法

・眠くなったら布団に入る

・規則正しいスケジュールを維持する

・昼寝を避ける

・布団は寝るためだけに使う

・20分くらい経っても眠れなかったら、布団から離れ、眠くなるまでリラックスして過ごす



布団の上で余計な刺激を避けることで、「布団は寝る場所」だと脳に認識させていくようなやり方ですね。


布団の中でテレビやスマホを見たりする方は結構いらっしゃいますが、そのような行動は睡眠にとっては悪影響があるので、控えたほうがよいでしょう。


リラクゼーション


次に、リラクゼーションです。


ガイドラインでは、漸進的筋弛緩法、イメージ療法、腹式呼吸が挙げられていますが、行いやすいのは、漸進的筋弛緩法と腹式呼吸でしょう。


漸進的筋弛緩法とは、筋肉をリラックスさせるために、あえて最初に10秒間ほど筋肉に力を入れて、その後15~20秒間ほど力を抜くというやり方です。


この動作を、両手、肩、首、顔、腹、背中、足など体のパーツごとに行っていき、最後に全身を対象として行います。


高く飛ぶためには一旦しゃがむ必要があるように、筋肉をリラックスさせるためには一旦緊張状態を作らないといけないんですね。



腹式呼吸のポイントは、「息を吐く時間を長くする」ことです。


息を吐くときに、人間は体をリラックスさせる副交感神経が働きます。


不安や緊張を感じているときは、自然と呼吸が浅くて速くなっているため、自分の呼吸状態に気づいたら、意識的に呼吸をゆっくり行って、息の吐く時間を吸う時間の2倍くらいにのばしてみるとよいでしょう。



漸進的筋弛緩法や腹式呼吸については、文部科学省のホームページにも載っているため、興味のある方はそちらもチェックしてみてください。



睡眠制限療法


最後は、睡眠制限療法です。


睡眠制限療法では、中途覚醒を減らして、睡眠の持続性を高めるために、あえて睡眠時間を制限します。


これを行うには睡眠活動量計が必要となるので、特に「睡眠の質を本格的に改善させたい!」といった方向けの方法になります。



ちなみに、私は「Oura Ring」という指輪型のガジェットを使って、睡眠の質を測定しています。


加速度、心拍数、体温などを測定してくれて、指輪なので寝ているときも邪魔に感じないところが気に入っています。



ただ、値段が若干高めであり、フィンランドのメーカーが作っているため、文章が英語表記となっています。



では、具体的なやり方についてみていきましょう。


睡眠制限療法

・睡眠活動量計を用いて、1~2週間の平均睡眠時間(純粋に眠っていた時間)を調べる

・平均睡眠時間に合わせて、布団に入る時間と出る時間を決める(ただし、5時間以上は睡眠時間を確保する)

・7日間の平均睡眠効率(睡眠時間/布団に入っていた時間×100%)が85%以上なら、布団に入っている時間を15~20分延ばす

・7日間の平均睡眠効率が80%未満なら、布団に入っている時間を15~20分減らす(ただし、5時間以上は睡眠時間を確保する)

・以上を7日間ごとに繰り返す



例えば、平均睡眠時間が6時間で、朝7時に起きたい人の場合だったら、夜1時に布団に入ります。


そして、7日間の平均睡眠効率が85%以上だったら次から0時40~45分、7日間の平均睡眠効率が80%未満だったら次から1時15~20分に布団に入るということになります。


睡眠時間や睡眠効率を細かくみていくので、管理はちょっと大変ですが、自分の睡眠状態に注意が向くので、普段の生活のなかでどのような要素が睡眠に影響を与えているのかわかりやすくなりそうです。



最後に


最近、私はキウイフルーツが睡眠の質を改善させるという論文を読んだので(Lin et al., 2011)、実際に試してみたところ、中途覚醒が減り、睡眠効率が上がりました。


キウイに含まれているセロトニンや抗酸化物質などが関係しているようですが、睡眠活動量計を使うと、このような睡眠状態の変化も客観的にとらえられるようになることは大きいですね。



2002年のロチェスター大学が行ったメタ分析では、行動療法は薬物療法と同じくらいの効果があるということが報告されています(Smith et al., 2002)。


薬物療法にはふらつきや転倒といった副作用もあるため、睡眠の質を改善させるためには、まず日常生活の改善からできる行動療法からぜひ試していってもらいたいです。


参考文献:
Lin, H. H., Tsai, P. S., Fang, S. C., & Liu, J. F. (2011). Effect of kiwifruit consumption on sleep quality in adults with sleep problems. Asia Pacific journal of clinical nutrition20(2), 169-174.
Schutte-Rodin, S., Broch, L., Buysse, D., Dorsey, C., & Sateia, M. (2008). Clinical guideline for the evaluation and management of chronic insomnia in adults. Journal of Clinical Sleep Medicine4(05), 487-504.
Smith, M. T., Perlis, M. L., Park, A., Smith, M. S., Pennington, J., Giles, D. E., & Buysse, D. J. (2002). Comparative meta-analysis of pharmacotherapy and behavior therapy for persistent insomnia. American Journal of Psychiatry159(1), 5-11.