2019年1月26日土曜日

がん告知後の自殺リスクについて調査した英国公衆衛生庁の研究


職場ではがんを抱えながら働かれている方もいらっしゃいますが、産業医として健康管理を行う上で、がん告知後にどの程度の心理的負荷がかかるのかについては理解を深めておきたいところです。


文献


そこで、JAMA Psychiatryに掲載されていた論文を読んでみました。

Henson, K. E., Brock, R., Charnock, J., Wickramasinghe, B., Will, O., & Pitman, A. (2018). Risk of suicide after cancer diagnosis in England. JAMA psychiatry.


こちらは2018年の英国公衆衛生庁の論文で、1995年から2015年までにがんと診断された4,722,099名を対象として2017年まで追跡し、自殺の発生率について調べています。


結果


結果としては、以下のようなことがわかりました。


・自殺によって死亡したのは2,491名(全死因の0.08%)

・がん告知後の自殺リスクは全体で1.20倍上昇(95%CI 1.16 to 1.25)

・自殺リスクが特に高かったのは、中皮腫(4.51倍)、すい臓がん(3.89倍)、食道がん(2.65倍)、肺がん(2.57倍)、胃がん(2.20倍)

・自殺リスクが逆に低かったのは、前立腺がん(0.90倍)、悪性黒色腫(0.80倍)

・自殺リスクが最も高かった時期は、がん告知後の最初の6カ月間で2.74倍(95%CI 2.52 to 2.98)



考察


やはり、がん告知後は自殺リスクは上がってしまうようです。


特に最初の6カ月間は自殺リスクが最も高いため、心理的なサポートを行うとしたら早期に介入したほうがよさそうですね。



また、がんの種類によっても自殺リスクが大きく異なることがわかりました。


第1位が中皮腫だったのは意外でしたが、アスベスト関連疾患で、産業保健とも深い関わりがあるため、原疾患の把握だけでなく、メンタル面の評価も必要になりそうです。



自殺リスクが高かったがんをみてみると、呼吸や食事に関わる臓器で発生しており、日常生活が大きく障害されることで、自殺につながりやすくなっているのかもしれません。



今回の研究を参考に、今後がんを抱えた方と面談するときは、がんの種類と告知の時期については確認していきたいです。