2018年12月5日水曜日

PTSDのリスクファクターについてメタ分析したカリフォルニア大学の研究


産業医として働いていると、事故や自殺の現場に遭遇するなどの極度のストレスイベントを経験した方々のケア(ポストベンション)をする機会があります。


一時的に気分が落ち込んだり眠りが浅くなったりするのは当然の反応ですが、懸念されるのはそのような症状が慢性的に続くPTSD(心的外傷後ストレス障害)に陥ってしまうことです。

ポストベンションを行うときには、どのような方々に注意すればよいのでしょうか。


このことについて調べるために、Psychological Bulletinに掲載されていた論文を読んでみました。

Ozer, E. J., Best, S. R., Lipsey, T. L., & Weiss, D. S. (2003). Predictors of posttraumatic stress disorder and symptoms in adults: a meta-analysis. Psychological bulletin129(1), 52.


こちらは2003年にカリフォルニア大学が行った研究で、PTSDの予測因子に関する68の先行研究をメタ分析して、PTSDとの相関関係を求めています。


メタ分析とは、関連するテーマの先行研究を集めてきて定量的に評価する手法のことで、複数の研究をまとめた結果となるため、研究の信頼性は高くなります。

メタ分析では「効果量」という標準化された数値を用いて効果の大きさを表現するのですが、相関の効果量としては、0.10で「小さい」、0.30で「中程度」、0.50で「大きい」効果があるとされています(Cohen, 1988)。


この研究では、PTSDの予測因子として以下の7つを調査しています。

・過去のトラウマ体験(23の先行研究、対象者5,308名)

・精神疾患の既往歴(23の先行研究、対象者6,797名)

・精神疾患の家族歴(9つの先行研究、対象者667名)

・命の危険の自覚(12の先行研究、対象者3,524名)

・自覚したサポート(11の先行救急、対象者3,537名)

・トラウマ関連の負の感情(5つの先行研究、対象者1,755名)

・トラウマ関連の解離体験(16の先行研究、対象者3,534名)


「解離」という言葉は一般の方に馴染みがないかもしれませんが、簡単に言うと、「心ここにあらず」の状態です。

トラウマのような極度のストレスイベントと真正面に向き合うことは、人間にとって大きな負担となります。

そこで、精神的健康への影響を和らげるために、心が無意識に働いて、実際に起きた出来事を忘れてしまったり、自分の身に起きたことではないように感覚が鈍くなったりするのです。


では、それぞれの予測因子とPTSDの相関関係についてみていきましょう。

・過去のトラウマ体験 0.17 (95%CI 0.11 to 0.22)

・精神疾患の既往歴 0.17 (95%CI 0.10 to 0.23)

・精神疾患の家族歴 0.17 (95%CI 0.04 to 0.29)

・命の危険の自覚 0.26 (95%CI 0.18 to 0.34)

・自覚したサポート -0.28 (95%CI -0.40 to -0.15)

・トラウマ関連の負の感情 0.26 (95%CI 0.08 to 0.42)

・トラウマ関連の解離体験 0.35 (95%CI 0.16 to 0.52)


全体的にみると、過去の背景要因よりも、トラウマの重症度やその後の状況のほうがPTSDと大きく相関しています。

なかでも最も大きな相関がみられたのは、トラウマ関連の解離体験でした。

やはり心が防衛的に働く反応がみられるほど極度のストレスイベントを体験したということなので、それだけ後々に大きな影響が現れやすいのでしょう。


また、その次に大きな相関がみられたのは、サポートのなさといったものでした。

以前に産業医面談したなかでは、トラウマイベントそのものよりも、その後に職場や組織がきちんと対応してくれなかったことに怒りを露にする方もいらっしゃいしました。

トラウマといった異常事態が発生したときには、通常と異なる反応が現れやすいのかもしれません。

産業医としては、ポストベンションなどを通じて、サポートを増やしていきたいところです。



PTSDに関する文献を探してみると、治療方法についてもメタ分析で色々わかっていることがありました。

また今度の記事で紹介していきますね。


参考文献:
Cohen, J. (1988). Statistical power analysis for the behavioral sciences 2nd edn.