2018年12月12日水曜日

年間で常勤産業医の約4人に1人がやめているという自治医科大学の研究


産業保健の現場で働いていると、「産業医の先生がなかなか定着しない」という企業の話を時々耳にしますが、産業医業界の流動性はどのようになっているのでしょうか。



このことについて調べるために、Occupational Medicineに掲載されていた論文を読んでみました。

Koike, S., Isse, T., Kawaguchi, H., & Ogawa, M. (2018). Retention among full-time occupational physicians in Japan. Occupational Medicine.


こちらは2018年の自治医科大学の論文で、2002年から2014年までの厚生労働省のデータを2次的に利用して、常勤産業医の年間継続率とそれに影響を与える要因について調べています。


結果はどうだったかというと、

・常勤産業医の年間継続率は76%

・ここ10年で6%改善している

・都市に比べて、郊外では常勤産業医が継続しにくい(オッズ比 0.54)

・今までの勤務期間が長いほど、やめにくい

となりました。


年間継続率が76%ということは、1年間で常勤産業医の約4人に1人はやめるということになります。

医療業界の職場は毎年15%の人が入れ替わるという流動性が激しいところではありますが、常勤産業医はそれよりもさらに大きな数値となっていますね。


私も常勤の産業医として働いていたことがありますが、1年間でやめてしまいました。

理由としては、臨床経験が積む機会が限られてしまうことが大きかったです。

産業医だけで生きていくという先生であれば、常勤の産業医を継続するメリットはありますが、臨床でも活躍したいという先生にとってはデメリットも出てきます。

常勤の産業医経験は勉強になることも多いのですが、臨床での専門性を身につけるためには、常勤産業医を長期に続けることは難しいでしょう。


長期に続けられる可能性があるとしたら、ある程度臨床経験を積んで専門性をもった先生が産業医になる場合ですが、こちらも今まで培ってきた自分の専門分野を離れてまで常勤産業医を行うメリットがあるのかという問題があります。

周りを見てみると、ワーク・ライフバランスを重視して産業医になる先生が多いように思いますが、労働時間や報酬面などで満足できないと、常勤産業医の定着は難しいでしょう。

郊外だとさらに生活面の課題も出てくるので、今回の研究で郊外の常勤産業医の継続性が都市の約半分となったのも当然の結果かと思います。


常勤産業医の継続率を改善するために、臨床経験を積める場を確保したり、待遇面を改善したりする対策が必要かと考えられます。

よろしければ、ご参考にしてください。