2018年12月1日土曜日

約75%の人は「風邪に抗生剤は効かない」ことを知らなかったという衝撃


風邪に対して抗生剤が効かないということは医者のなかでは常識なのですが、一般の方々にはなかなか浸透しにくい現状があるようです。


Kamata, K., Tokuda, Y., Gu, Y., Ohmagari, N., & Yanagihara, K. (2018). Public knowledge and perception about antimicrobials and antimicrobial resistance in Japan: A national questionnaire survey in 2017. PloS one13(11), e0207017.


こちらは2018年の国立国際医療研究センターの論文で、執筆者はなんと私が初期研修医時代に水戸協同病院でお世話になった鎌田一宏先生です。


学年的には2つ上の先輩で、当時は鎌田・大滝チームとしてペアを組み、直接的な指導を受けながら、実際の診療に臨んでいました。


水戸協同病院は業務が超多忙なことで有名でしたが、我々は学生時代にサッカー部に所属していたという共通点からすぐに意気投合し、バルサのパスワークのような絶妙なコンビネーションから、退院という名のゴールを量産しました。


当時担当した患者数はダントツの首位をキープし、常勝軍団としての地位を確立しただけでなく、体調を崩した他のチームのカバーリングまで行うという無尽蔵のスタミナも披露し、世界を震撼させました。


仕事をキチンとこなした後は、病院の屋上で練乳ミルクを飲みながら休憩し、仕事が終わった後は中華料理店でフードファイトするといったフィジカルの強化も怠らず、最優秀プレイヤーの称号であるバロンドールを欲しいままにしました。


きっと、この業績は伝説として後世に語り継がれていることでしょう。きっと。



そんなアツい師弟関係のある鎌田先生ですが、現在は感染症を専門とし、日本だけでなく、シンガポール、ルワンダ、イタリア、ミャンマーなど世界を舞台に活躍されています。


その海外組としての豊富な経験から、風間さんのマンデーセレクションに選ばれるようなスーパープレイを披露していたのでご紹介します。



今回の研究がどのようなものかというと、20-69歳の医療従事者ではない方々を対象として、抗生剤に関するオンライン調査を行っています。


3,390名から回答を得たのですが、その主な結果は以下のようになりました。


・抗生剤はウイルスに効かないことを知っていたのは21.9%(EUでは43%)

・抗生剤は風邪やインフルエンザに効かないことを知っていたのは24.6%(EUでは56%)


・57.5%の人は抗生剤に関する情報を得ていなかった


・10.2%の人は風邪で抗生剤を要求していた


・30.2%の人は風邪に抗生剤を出す医師を好んでいた




つまり、約75%の人は風邪に抗生剤が効かないことを知らず、その多くの原因は抗生剤に関する情報不足であり、その結果として誤った対処行動にもつながっているということになります。



個人的には、前々からこの抗生剤問題は気になっていましたが、今回の結果は予想を上回る数値で衝撃的でした。


風邪の場合でも細菌感染を合併している可能性のあるケースでは抗生剤が処方されることはありますが、抗生剤には副作用や耐性菌の問題もあるため、特に必要のないケースではむやみな乱用は控えるべきです。


EUと比較してみると、日本の抗生剤に関する理解度は半分以下となっており、医療者と一般の方との情報格差を埋める取り組みは必要となるでしょう。



今回の鎌田先生の研究では、


73.5%の人が、最も信頼できるのは医師からの情報と回答


ということも報告しています。



つまり、医師から抗生剤についてきちんと説明していくことは、医療者と一般の方の情報格差を埋めていく手段として有効と考えられます。


私が初期研修のときに内科外来を担当したときは、「抗生剤は細菌感染症に対して使う薬であり、ウイルス感染症である風邪には効かない」ということを事前に説明してきましたが、それにより風邪で抗生剤の処方を希望する方に遭遇することはありませんでした。



抗生剤に関する知識を普及させたり、医師と患者の信頼関係を構築したりしていくためにも、風邪の患者さんには最低限その程度の説明はしておいたほうがよさそうです。