前回の記事で、変革型リーダーシップは仕事の生産性と有意に関連していることをお伝えしましたが、変革型リーダーシップは鍛えられるものなのでしょうか。
このことについて調べるために、German Journal of Human Resource Managementに掲載されていた論文を読んでみました。
Abrell, C., Rowold, J., Weibler, J., & Moenninghoff, M. (2011). Evaluation of a long-term transformational leadership development program. German Journal of Human Resource Management, 25(3), 205-224.
こちらは2011年のドルトムント工科大学の研究で、製薬会社の管理職25名を対象として、変革型リーダーシップ研修の効果について評価しています。
評価項目としては、
・被験者の変革型リーダーシップの変化(被験者の部下による評価)
・被験者の生産性の変化(被験者の上司による評価)
・被験者の部下の組織市民行動の変化(被験者の部下による評価)
が用いられました。
組織市民行動とは、自分にとっては役割外だけれど、組織にとって役に立つ活動のことをいいます。
例えば、同僚を助けたり、組織のコンプライアンスをしっかり守ったりすることです。
前回ご紹介した文脈的パフォーマンスに近いですが、組織市民行動では代価を求めないことが前提となっており、より自発的な活動となっています。
そして、研究結果としては以下のようなことがわかりました。
・被験者の変革型リーダーシップは研修6カ月以降で有意に改善
・被験者の生産性は研修後3カ月で改善(効果量 0.85)
・被験者の部下の組織市民行動も研修後3カ月で改善(効果量 0.21)
効果量の目安は、0.3で「小さい」、0.5で「中程度」、0.8で「大きい」効果があるとされています(Cohen, 1988)。
つまり、被験者の生産性は研修で大きく改善し、被験者の部下の組織市民行動にも小さい改善効果がみられたということになります。
その他の先行研究でも、変革型リーダーシップ研修を受けることで、部下の組織への貢献や経済的パフォーマンスに効果があったことが示されており(Barling et al., 1996)、変革型リーダーシップは鍛えることができそうです。
では、どのような研修を行ったのかについてみていきましょう。
研修の大枠としては、2日間のプログラムを3か月ごとに5回行っています。
初回は変革型リーダーシップに馴染んでもらうためのワークショップで、その後4回はフォローアップ・セッションという形で構成されています。
ワークショップでは、以下のようなことが行われました。
・変革型リーダーシップ理論の講義
・ファシリテーターによる360度評価のフィードバック
・職場で変革型リーダーシップを実行するためのアクションプランの作成
・作成したアクションプランを4,5名の被験者グループのなかで発表してフィードバックを受ける
・アクションプランの改善
ざっくり言うと、変革型リーダーシップの中身を理解し、自分の特性を把握したうえで、アクションプランを考えてみましょうといった内容になっています。
では、その後のフォローアップ・セッションでどのようなことが行われたのかみていきましょう。
・被験者グループのなかでそれぞれのリーダーシップの状況を発表
・聞き役となっていた被験者が気になった点について質問
・聞き役が集まって、実践的で創造力のあるアドバイスを考案
・オプションで、ロールプレイを実行
・一連の過程について振り返り
・今後のアクションプランの作成
内容をみると、グループ内でのフィードバックに重点が置かれています。
他の人の視点からみることで、新しい発見がありそうですね。
それに加えて、ただフィードバックをもらうだけでなく、他の被験者へのフィードバックを考えるといったアウトプットの作業も含まれているところが効果的なような気がします。
というのも、先行研究では、後でテストすることよりも教えることを指示されたグループのほうが、学習効率が良かったことが報告されているのです(Nestojko et al., 2014)。
教えるためにはインプットした情報を理解するだけでなく、他人にわかるように言語化するプロセスが加わるので、より知識が定着しやすいのでしょう。
そう考えると、よく学校でテスト前に他人に教えたがる人がいましたが、あれはテスト勉強として効果的だったんですね。
今回の研究の研修プログラムをそのまま職場で実践するためには、変革型リーダーシップに精通しているファシリテーターが必要になってくるので、研修を専門的に扱っている企業に外注でもしない限りは難しいでしょう。
しかし、他人に教えるといった行為は学習効率が高い作業なので、まずは変革型リーダーシップについて理解を深めるために、グループのなかでそれぞれの担当を決めて、各自調べた内容を発表してみるといった活動は効果的かもしれません。
今後そのような研究が出てくると一番良いのですが。
参考文献:
Barling, J., Weber, T., & Kelloway, E. K. (1996). Effects of transformational leadership training on attitudinal and financial outcomes: A field experiment. Journal of applied psychology, 81(6), 827.
Cohen, J. (1988). Statistical power analysis for the behavioral sciences 2nd edn.
Nestojko, J. F., Bui, D. C., Kornell, N., & Bjork, E. L. (2014). Expecting to teach enhances learning and organization of knowledge in free recall of text passages. Memory & Cognition, 42(7), 1038-1048.