2018年11月24日土曜日

働く人の幸福感や生産性を高めてくれる職場のリソースについてメタ分析したシェフィールド大学の研究


裁量権や周囲のサポートなどの職場のリソースは、健康管理のうえで非常に重要な要素でありますが、では実際に職場にどのようなリソースがあると効果的なのでしょうか。


このことについて調べるために、Work & Stressに掲載されていた論文を読んでみました。



こちらは2017年にイギリスのシェフィールド大学が行った研究で、職場のリソースと働く人の幸福感・生産性の関連について調べた84の先行研究をメタ分析して相関係数を求めています。


メタ分析とは、研究テーマに関連する文献を集めてきて定量的に評価する手法のことで、様々な研究をまとめたものなので、研究の信頼性が高くなります。

メタ分析では「効果量」という標準化した数値を用いて、効果の大きさを評価するのですが、相関係数の効果量としては、0.10で「小さい」、0.30で「中程度」、0.50で「大きい」効果があるとされています(Cohen, 1988)。


この研究では、職場のリソースを以下のように階層別に分類して解析を行っています。

・個人(自己効力感、楽観主義、ストレス対処力など)
・集団(周囲のサポート、職場の雰囲気など)
・上司(疎通性、変革型リーダーシップ)
・組織(裁量権、人事の対応)


では、結果についてみていきましょう。

全体的な職場のリソースと働く人の幸福感・生産性の相関関係は以下のようになりました。

・幸福感 0.29
・生産性 0.21

職場のリソースとの関連では、生産性よりも幸福感のほうがやや大きいようです。


次に、それぞれ階層別にみてみましょう。

幸福感
・個人 0.24
・集団 0.25
・上司 0.27
・組織 0.31

生産性
・個人 0.21
・集団 0.17
・上司 0.22
・組織 0.20

階層別では、個人・集団よりも上司・組織の影響の影響が僅かながら大きくなっています。

ただ、統計的に有意な差はなかったようです。

つまり、職場のリソースはどの階層でも幸福感や生産性を改善させるのに有効ということになります。


また、働く人の生産性に関しては、以下のように評価者別の解析も行っています。

・自記式
・上司/第三者
・客観的データ(費用効果、営業成績など)


これらと職場のリソースの相関関係がどうなったかみてみましょう。

・自記式 0.23
・上司/第三者 0.23
・客観的データ 0.09


これは大きな違いがみられましたね。

職場のリソースが増えると、本人や上司/第三者は生産性が高まったと感じやすいですが、客観的なデータとしてはそこまで改善しなかったということになります。

学校の授業を聞いてわかった気になっていたら、テストで全く点がとれなかったときと同じようなことでしょうか。

なんだか、ちょっと切ない結果ですね。

ただ、今回の研究では上司/第三者の評価でも生産性は上がっているので、他の人の目から見てもわかる何らかの変化はあるのでしょう。


客観的なデータを改善するためには、その問題に焦点を絞った対策が必要だったり、成果に結びつくまでに時間がかかったりするのかもしれません。

私の場合で考えてみると、瞑想や筆記開示などを始めてからメンタルが安定して個人リソースは高まりましたが、ブログを始めたり本を出したりといった客観的データによる生産性を改善するまでには時間がかかりました。


そういう意味では、職場のリソースは客観的データを直接的に改善させる効果は乏しいけれど、そのきっかけにはなっているのかもしれません。


よろしければ、参考にしてください。


参考文献:
Cohen, J. (1988). Statistical power analysis for the behavioral sciences 2nd edn.