2018年5月26日土曜日

わかっちゃいるけど行動できないのは結局何が原因なのか


運動しなきゃと思っていても家でゴロゴロしてしまったり、ダイエットしたいけど目の前のスイーツを食べてしまったりしたことは誰しも経験していることではないでしょうか。

私もこのブログを始めれば自分の勉強になるし、読者の方にも科学研究からわかった最新の知識をお届けできて良いことだらけだなと思っていながら、実際にブログを開設するまで1年以上かかってしまいました。

このように、わかっちゃいるけどなかなか行動できないというのは何が原因なのでしょうか。

古くから言われてきたのは、自制心です。目先の誘惑に負けず、将来の大きな目標を達成するために行動していくには自制心が必要になってきます。

有名な実験はマシュマロテストで、4歳の子供の目の前にマシュマロを1個見せ、15分間食べるのを我慢したら、もう1個あげるというものです(Mischel et al, 1972)

最後まで我慢できたのは約1/3だったそうですが、その後の追跡調査でマシュマロを我慢できたグループは認知能力・学力・ストレス対処力が有意に高かったと報告されています(Shoda et al, 1990)。

つまり、自制心の高かったグループは社会的な成功を得られる要素を多くもっていたのです。

自制心は鍛えることもできるといわれています。ポイントは、普段意識しないことに意識を向けることです。例えば、姿勢を正しくしたり、普段とは逆の手で作業してみたり、呼吸に集中する瞑想をやってみたりすることです。

このあたりに興味のある方は、ロイ・バウマイスター教授の「意志力の科学」を読んでみることをおすすめします。


さて、ここまでは行動を起こすためには自制心が重要だというお話をしてきたのですが、ここ最近の研究で自制心をうまく働かせるにはセルフコンパッションが大切ということが指摘されてきています(Terry & Leary, 2011)。

セルフコンパッションとは、簡単にいえば、自分を思いやることです。

何かやりたいことがあっても行動できないのは、失敗したときの自分を受け入れられず、「あぁ、自分はなんてダメな人間なんだ」などと自己批判や自己嫌悪に陥ってしまうことにあります。

新しく何かを始めるときに失敗は付きものですが、そこから学べることは多く、それをうまく活かせば成功につながります。しかし、失敗したときに自己批判や自己嫌悪に陥ってしまうと、そこで思考が停止してしまって、次への対策につながらないのです。

そこで、セルフコンパッションが大切になってきます。うまくいかないことがあっても、「そういうこともあるさ。大変だったね。」と自分への思いやりをもつことで、ネガティブな気持ちを受け入れて今後の対策を考えることができるのです。

実際に、ここ最近のメタアナリシスでは、セルフコンパッションが感情を介して健康に関連した行動を促していること(Sirois et al., 2014)や精神的健康と関連していること(Zessin et al., 2015)が指摘されています。

セルフコンパッションについて詳しく知りたい方は、クリスティーン・ネフの「セルフ・コンパッション」を読んでみることをおすすめします。

この本にはセルフコンパッションを鍛える方法も紹介されていますが、私はまず自分の感情に関する日記をつけてみることがよいと思います。

多くの人は、ネガティブな感情が出現したときにそれをなくそうとしたり気にしないようにしたりしますが、それは余計にネガティブな感情を大きくしてしまうことにつながります。

「ピンク色の象を考えないでください」

と言われたときに、実際にピンク色の象を頭のなかでイメージせずにいられるでしょうか。

これと同じで、ネガティブな感情を考えないようにすればするほど大きくなってしまうのです。これを防ぐために、自分の感情を紙に書くなど文字に起して俯瞰することで、今の自分を受け入れやすくすることができます。いわゆるメタ認知ですね。

私もこれを始めてから不安や気分の落ち込みが減り、以前よりも行動力がついてきたことを実感しています。行動力を上げたい方はぜひ試してみてください。


参考文献:
Mischel, W., Ebbesen, E. B., & Raskoff Zeiss, A. (1972). Cognitive and attentional mechanisms in delay of gratification. Journal of personality and social psychology21(2), 204.
Shoda, Y., Mischel, W., & Peake, P. K. (1990). Predicting adolescent cognitive and self-regulatory competencies from preschool delay of gratification: Identifying diagnostic conditions. Developmental psychology26(6), 978.
Sirois, F. M., Kitner, R., & Hirsch, J. K. (2015). Self-compassion, affect, and health-promoting behaviors. Health Psychology34(6), 661.
Terry, M. L., & Leary, M. R. (2011). Self-compassion, self-regulation, and health. Self and Identity10(3), 352-362.
Zessin, U., Dickhäuser, O., & Garbade, S. (2015). The relationship between self‐compassion and well‐being: A meta‐analysis. Applied Psychology: Health and Well‐Being7(3), 340-364.