先日、「ストレスチェックにストレス低減・パフォーマンス改善の効果はあるのか」という記事を書きましたが、そもそもストレスチェックで高ストレスと判定された場合、どのくらいの危険性が含まれているのでしょうか。
このことを調べるために、Journal of Occupational Healthに掲載されていた論文を読んでみました。
Tsutsumi, A., Shimazu, A., Eguchi, H., Inoue, A., & Kawakami, N. (2018). A Japanese Stress Check Program screening tool predicts employee long-term sickness absence: a prospective study. Journal of occupational health, 60(1), 55-63.
こちらは2018年の北里大学の研究で、厚生労働省が推奨しているストレスチェック(BJSQ)を受けた金融サービス業の労働者(男性7,356名, 女性7,362)を対象として、その後1年間にどのくらい長期休職者(1か月以上)が発生したのかをCox回帰分析を用いて評価しています。
結果はどうだったかというと、調査期間中に男性34名、女性35名が長期休職しました。
属性を調整したうえで、高ストレス者における長期休職のハザード比を求めると、男性で6.59(95%CI 3.04-14.25)、女性で2.77(95%CI 1.32-5.83)となりました。
そして、高ストレスと判定されたことの寄与危険割合は、男性で23.8%(95%CI 10.3-42.6)、女性で21.0%(95%CI 4.6-42.1)でした。
ということで、やはり高ストレス者では長期休職リスクは有意に上がっていますね。そのなかでも、男性が女性よりも2倍以上ハザード比が大きいことは気になります。
この差が生まれる要因の1つとしては、周囲のリソースをどれだけ活用できるかということが考えられます。
何かストレスを抱えたときに、一般的に女性のほうが男性よりも専門家や周囲の人に相談しやすい傾向があります(Addis & Mahalik, 2003)。
リソースをうまく使える人は、ストレスレベルが高くても、その状況にうまく対処できるので、長期休職につながりにくくなるのです。
逆に考えると、マネジメントとして高ストレス者に周囲のリソースを活用できるようにアプローチしていくことは1つの手ではないでしょうか。
面談対応していると、周囲のリソースを活用できなかったり、そもそもリソースに気づいていなかったりするケースがよくあります。
このような場合には、高ストレス者に対して周囲のリソースを呈示したり、周りからサポートしたりすることで、本人のなかで「困ったときに周りに相談すれば助けになる」という感覚をもたせていくことが重要です。
ただ、これができるかどうかは私の経験からすると、組織風土による影響が大きいです。つまり、組織全体として健康にどれだけ関心をもっているかということです。
企業の経営を考えたときに従業員の健康まで目が向かないかもしれませんが、健康に力を入れている企業はその他の企業と比較して株価も高くなることが先行研究で報告されています(Fabius et al., 2013)。
つまり、健康への投資は企業の経営にもメリットがあるのです。
つまり、健康への投資は企業の経営にもメリットがあるのです。
ぜひ、この事実を健康的な職場づくりの動機付けに活用してもらいたいです。
参考文献:
Addis, M. E., & Mahalik, J. R. (2003). Men, masculinity, and the contexts of help seeking. American psychologist, 58(1), 5.
Fabius, R., Thayer, R. D., Konicki, D. L., Yarborough, C. M., Peterson, K. W., Isaac, F., ... & Dreger, M. (2013). The link between workforce health and safety and the health of the bottom line: tracking market performance of companies that nurture a “culture of health”. Journal of occupational and environmental medicine, 55(9), 993-1000.