2018年4月21日土曜日

教育や職業レベルは退職時期に影響を与えるというロンドン大学の研究

社会経済レベルは健康に影響を与える要因となっていますが、退職時期にも影響を与えるのでしょうか。

このことについて調べるために、Occupational and Environmental Medicine掲載されていた論文を読んでみました。

Carr, E., Fleischmann, M., Goldberg, M., Kuh, D., Murray, E. T., Stafford, M., ... & Zins, M. (2018). Occupational and educational inequalities in exit from employment at older ages: evidence from seven prospective cohorts. Occup Environ Med75(5), 369-377.

こちらはロンドン大学の研究で、50歳前後に少なくとも1回は仕事についたことのある人99,164名を対象として、cox回帰モデルで社会経済レベル(教育・職業レベル)の違いによる退職時期のハザード比を男女別で評価しています。

ちなみに、ここで扱われているデータは7つのコホート調査から得られており、統計解析はそれぞれのコホート調査に対して行われています。


フォローアップの期間に50,003名の退職があり、そのうち14%は健康に関連した退職でした。

健康に関連した退職について結果をみていくと、

教育レベルの低さは、
・男性では7つの研究すべてで統計的に有意となり、ハザード比は1.52 (95% CI 1.16-1.99)-3.47 (95% CI 2.27-5.28)
・女性では4つの研究で有意となり、ハザード比は1.32 (95% CI 0.78-2.24)-2.24 (95% CI 2.06-2.45)
となりました。

職業レベルの低さは、
・男性では6つの研究で有意となり、ハザード比は1.61 (95% CI 0.90-2.89)-4.60 (95% CI 3.19-6.63)
・女性では7つすべてで有意となり、ハザード比 1.66 (95% CI 1.04-2.65)- 3.42 (95% CI 3.09-3.78)
となりました。


全ての退職について結果をみていくと、

教育レベルの低さは、
・男性では4つの研究で有意となり、ハザード比 0.91 (95% CI 0.74-1.12)-2.54 (95% CI 2.41-2.67)
・女性では3つの研究で有意となり、ハザード比は0.96 (95% CI 0.80-1.14)-1.62 (95% CI 1.44-1.83)
となりました。

職業レベルの低さは、
・男性では3つの研究で有意となり、ハザード比は0.89 (95% CI 0.70-1.13)-1.88 (95% CI 1.78-1.99)
・女性では3つの研究で有意となり、ハザード比 0.97 (95% CI 0.84-1.12)- 1.35 (95% CI 1.20-1.52)
となりました。


結果をみると、健康に関連した退職で社会経済レベルの影響が大きいですね。教育レベルが高ければ職業レベルの高い仕事にも就きやすいですし、健康に関する知識も増えやすいので当然の結果でしょう。

ただ、産業医として考えたのは、社会経済レベルの低い方には健康に関する情報をより多く丁寧に提供していく必要があるということです。

健康に関する情報を理解したうえで、その人がどのように振舞うのかは自由ですが、知識不足のために健康を害して退職に追い込まれるのは減らしていきたいところです。