自殺の可能性を伴うケースでは精神科や産業保健の現場でも緊急の対応が必要になってきます。あらかじめ自殺の可能性を予測できると対応しやすくなりますが、仕事のストレスのなかで自殺につながりやすいものは存在するのでしょうか。
このことについて調べるために、Occupational and Environmental Medicineに掲載されていた論文を読んでみました。
Milner, A., Witt, K., LaMontagne, A. D., & Niedhammer, I. (2017). Psychosocial job stressors and suicidality: a meta-analysis and systematic review. Occup Environ Med, oemed-2017.
こちらはメルボルン大学の研究で、22の研究が解析対象となっており、自殺念慮と自殺についてメタ分析が行われています。
ちなみに、メタ分析とは、研究テーマに関連する論文を寄せ集めて、定量的に評価したもののことをいいます。様々な研究をまとめたものなので、エビデンスレベルは最も高くなります。
自殺念慮と関連する仕事のストレスとしては、同僚・上司の支援の乏しさ、仕事のコントロール感のなさ、仕事のノルマ、努力報酬不均衡(努力が報われない状態)、仕事の不安、仕事の負荷、仕事での板挟み、シフト勤務が調査されています。
そして、自殺と関連する仕事のストレスとしては、同僚・上司の支援の乏しさ、仕事のコントロール感のなさ、仕事のノルマ、仕事の不安、仕事の負荷が調査されています。
結果はどうなったかというと、自殺念慮のオッズ比が高かったものとしては、
・仕事の不安で1.91 (95% CI 1.22 to 2.99)
・仕事での板挟みで1.85 (95% CI 1.17 to 2.92)
・努力報酬不均衡で1.81 (95% CI 1.30 to 2.52)
となっていました。
そして、自殺のオッズ比が高かったものとしては、
・仕事のコントロール感のなさで1.23 (95% CI 1.00 to 1.50)
・上司や同僚の支援の乏しさで1.16 (95% CI 0.98 to 1.38)
という結果でした。
自殺のオッズ比では統計的に有意な差はみられていませんが、自殺念慮と自殺でオッズ比の高い仕事のストレスが異なっています。
自殺に関しては、仕事の裁量権や周囲のサポートのなさが関連しやすい傾向がみられますが、これは仕事のストレスに対して「自分では対処できず、周りにも助けてもらえない」という閉塞した状況が考えられます。
また、自殺に至るようなケースでは、「真剣に死を望み、誰にも知られたくない」「誰も自分を救えない」などと自分の苦悩について他者に相談しにくい傾向があり(Shea, 1999)、場合によっては援助者を敵とみなすこともあります(Chiles & Strosahl, 2008)。
そのため、仕事の裁量権や周囲のサポートがない環境下においては、本人からの訴えがなくても、心身の健康面の把握には慎重な対応が求められます。
参考文献
Chiles, J. A., & Strosahl, K. D. (2008). Clinical manual for assessment and treatment of suicidal patients. American Psychiatric Pub.
Shea, S. C. (1999). The practical art of suicide assessment: A guide for mental health professionals and substance abuse counselors. John Wiley & Sons Inc.