座っている時間が長くなると、死亡率や心血管系リスクが高まることが報告されており(Katzmarzyk et al., 2009)、職場でスタンディングデスクを導入する企業も出てきていますが、費用対効果としてはどうなのでしょうか。
このことについて調べるために、Scandinavian Journal of Work, Environment & Healthに掲載されていた論文を読んでみました。
Gao, L., Flego, A., Dunstan, D. W., Winkler, E. A., Healy, G. N., Eakin, E. G., ... & Wiesner, G. H. (2018). Economic evaluation of a randomized controlled trial of an intervention to reduce office workers’ sitting time: the" Stand Up Victoria" trial. Scandinavian journal of work, environment & health.
こちらは2018年のオーストラリアのディーキン大学の研究で、231名の太り気味のデスクワーカー(BMI ≧ 25)を次の2つのグループに分けて、座っている時間を減らすことの費用対効果を調べています。
①スタンディングデスクを導入し、個人や組織レベルで座る時間を減らすように3か月間指導された介入グループ
②いつも通りに過ごしていたコントロールグループ
この2つのグループが1年後にどのような変化したかというと、
・介入グループのほうが仕事中に座っている時間が46.8分短く、立っている時間が42.2分長かった
・両グループ間で、BMI、生活の質、病気休暇に有意な差はみられなかった
となりました。
ここまでだと、それほど健康にメリットがないような気もしますね。
では、これをオーストラリアの労働人口に当てはめて費用と効果を計算してみると、
・介入のコストは、1人あたり344.43オーストラリアドル
・介入の効果により、寿命を0.010年、健康寿命を0.012年延ばした
となりました。
1オーストラリアドルは約81円ですから(2018年8月12日時点)、介入コストを日本円に換算すると、約28,000円となります。
これにより健康寿命が0.012年延びたわけですから、健康寿命を1年間延ばすコストとしては約230万円となります。
みなさんはこの金額をどのように考えるでしょうか。
大きな金額ではありますが、個人的には230万円で健康に過ごせる期間が1年間増えるのであれば払っても悪くはないと思います。
実際に、オーストラリアの先行研究では、健康寿命を1年延ばすことは5万オーストラリアドル(約400万円)の効果があると報告されているので(Shih et al., 2017)、今回の研究結果も費用効果があるということになります。
その他にも、この研究では評価されていませんが、スタンディングデスクは生産性を高めたり(Garrett et al., 2016)、集中力や認知機能を向上させることも報告されています(Rosenbaum et al., 2017)。
これらのことを考えると、スタンディングデスクを導入するメリットは大きいでしょう。
私も2018年初めから自宅でIKEAのスタンディングデスクを使い始めていますが、以前よりも作業効率が上がったことを実感しています。
興味のある方は試してみてはいかがでしょうか。
参考文献:
Garrett, G., Benden, M., Mehta, R., Pickens, A., Peres, S. C., & Zhao, H. (2016). Call center productivity over 6 months following a standing desk intervention. IIE Transactions on Occupational Ergonomics and Human Factors, 4(2-3), 188-195.
Katzmarzyk, P. T., Church, T. S., Craig, C. L., & Bouchard, C. (2009). Sitting time and mortality from all causes, cardiovascular disease, and cancer. Medicine & Science in Sports & Exercise, 41(5), 998-1005.
Rosenbaum, D., Mama, Y., & Algom, D. (2017). Stand by Your Stroop: Standing Up Enhances Selective Attention and Cognitive Control. Psychological science, 28(12), 1864-1867.
Shih, S. T., Carter, R., Heward, S., & Sinclair, C. (2017). Economic evaluation of future skin cancer prevention in Australia. Preventive medicine, 99, 7-12.