モデルナのワクチン接種を行った8日後、それは突然現れた。
コロナ関連の研究情報は様々なサイトで公開されており、このブログでわざわざ取り上げなくてもいいかなと思って、しばらく更新せずに放置していた。
きっとこのマニアックなブログの読者の方々もニッチでインパクトのある情報を欲していることだろう。
そんな方々に朗報がある。久々に心躍る情報に出会うことができた。
そのきっかけは、来月から関わることになった職域接種である。
普段はあまり日の目を見ない産業医も、この職域接種を機に一躍社会で最も必要とされる人材の一種となった。
この社会的ニーズに応えて無事に職域接種を完了させるべく、私は様々な文献を調べて職域接種マニュアルを作成した。
厚労省など信頼できる情報源からマニュアルを作成したので大丈夫だろうと自信満々でいたら、医局の先生から大変参考になるご指摘を頂いた。
「肩峰から3横指下」に筋注するのは推奨されないと。
私はそのとき一体どういうことなのかわからなかった。
厚労省のサイトでは筋注部位は肩峰から3横指が目安と記載されている。
その他の教科書でも同様に記載されているのを見たことがあり、この目安は揺るぎないものだと信じていた。
天動説を信じていた中世の人々が急に地動説を聞かされたようにパニック状態に陥った私はすぐさま文献検索してみた。
すると、参考になる論文が見つかった。奈良県立医科大学の中西先生らの研究である。
この論文を拝見すると、肩峰から3横指下(5cm)では腋窩神経と後上腕回旋動脈が走行しており、筋注によって損傷のリスクがあるというのだ。
また、肩峰から4cm以内に筋注すると、三角筋下滑液包という部位に薬液を注入する可能性があり、それによって肩関節の痛みや可動域制限が出現するリスクがある(SIRVA)。
このようなリスクがあるとは恥ずかしながら知らなかった。常に謙虚な姿勢で、知識をアップデートしていくことが大切だと痛感した。
筋注は肩峰から3横指では近すぎることがわかったが、では適切な筋注部位はどこになるのだろうか。
このことに関しても中西先生の論文で触れられている。
結論から言うと、肩峰からの垂線と前後の脇下の上端を結んだ線の交点が目安になる。
従来の肩峰から3横指と比べると、さらに3〜4cm下になるようだ。
この位置であれば神経や血管を損傷するリスクが低くなる。
ただし、気をつけておきたいポイントが1つある。
それは、皮下注射で推奨されるように手を腰に当てて肩を内旋させた状態で接種しないことである。
このような状態で筋注すると、橈骨神経を損傷して手関節や手指が麻痺するリスクが出てきてしまう。
接種するときは腕を自然に下ろした状態で行うようにしていただきたい。
日本で筋注という手技は、打つほうも打たれるほうも慣れていないことが少なくない。
今回の論文を参考にすると、肩峰から3横指下に筋注するのは避けておいたほうが無難に思える。
私が職域接種で主に関わるのは問診だが、大変勉強になる内容だった。今後、筋注の機会があれば実践していきたい。