2020年3月19日木曜日

不眠症と眠剤服用、交通事故に遭いやすいのはどちらか!?


精神科で外来診察していると、たまに「車の運転はしても大丈夫ですか?」と訊かれる。



大丈夫かと訊かれると、大丈夫とは言えないというのが実情である。



精神科の薬の副作用としては、どれも添付文書に「眠気」といったものが記載されている。



頻度や程度の差はあれど、薬の添付文書にそのように書かれていると、こちらから車の運転について太鼓判を押すことはできないのだ。



しかし、精神科薬の交通事故リスクはどのくらいのものなのだろうか。



特に不眠症の場合、それ自体の症状として日中の眠気が生じるが、眠剤を服用すると症状が緩和されて交通事故のリスクは低くなるのだろうか?



それとも、眠剤の催眠作用が日中も残存するという副作用で、交通事故のリスクは高くなるのだろうか?






このことに関して参考になるのは、2020年のラヴァル大学の研究である(Morin et al., 2020)。



こちらの研究では、3,413名の被験者を5年間追跡して、不眠症や眠剤服用の有無と交通事故の関係について調査している。



つまり、不眠症や眠剤服用によって、交通事故のリスクがどのくらい増えるのか調べてくれているというわけだ。



気になっていたことに関してズバリと取り組まれていて有難い。






それでは、結果についてみていこう。



この研究では、以下のようなことがわかった。



・不眠症によって交通事故のリスクは20%高まる(95%CI: 1.00-1.45)


・眠剤服用によって交通事故のリスクは58%高まる(95%CI: 1.16-2.14)


・特に、若い女性(18-29歳)や日中に過剰な眠気があると、交通事故が起きやすかった



どうやら、不眠症よりも眠剤服用のほうが交通事故のリスクは高くなるようだ。



これは、眠剤の副作用による影響も考えられるし、眠剤を服用しなければならないほど症状が重い不眠症を抱えているということも考えられるだろう。






この結果を見ると、眠剤を処方するときはなるべくマイルドなものから試していく必要性を改めて感じる。



特に、若い女性に対して処方するときは気をつけたい。



臨床的にも、若い女性に眠剤を処方したときは日中に眠気が残ることが多く、今までの経過を見ると過去に交通事故を起こしているケースも少なくないという実感がある。



眠剤程度であれば、精神科以外でも処方されることは多いと思うが、医師の皆様は今回の研究を参考にして過鎮静に十分ご注意いただきたい。