医師としてメンタルヘルスに関わる仕事をしていると、自分の自殺リスクがどのくらいあるのか気になることがある。
医師の仕事は、当直などで長時間労働が問題となりやすい反面、ある程度の経験を積めば患者の治療方針を主体的に決められるなどの裁量権が得られる。
つまり、ストレス増強要因も多いが、ストレス緩和要因も高いのだ。
ただ、もちろん例外もあり、各科で決められた期間をローテーションしなければならない研修医のようにあまり裁量権がないこともあれば、平日にブログを更新している私のように暇を持て余していることもあるのは忘れてはならない。
果たして、医師の自殺率は一般人口と比較して高いのだろうか、それとも低いのだろうか。
このことに関して参考になるのが、2020年のJAMAに掲載されたハーバード大学の研究である(Duarte et al., 2020)。
この研究では、医師の自殺率について調査した9件の先行研究をメタ分析している。
先行研究が行われた国々は、イギリスが3件、オーストラリアが2件、アメリカ・ブラジル・フィンランド・エストニアがそれぞれ1件ずつとなっている。残念ながら、日本は含まれていない。
これらの先行研究では、調査期間中に男性医師547名、女性医師162名の自殺があったという。
そして、このデータから医師の自殺率と一般人口の自殺率を求めた結果がこちら
・男性医師の自殺率は、一般人口の0.67倍(95%CI: 0.55-0.79)
・女性医師の自殺率は、一般人口の1.46倍(95%CI: 1.02-1.91)
・男女ともに医師の自殺率は1980年以降減少傾向
どうやら、男性医師の自殺率は一般人口よりも低い一方、女性医師は一般人口よりも高いようだ。
この違いに関して気になったので、論文の考察を読んでみると、男性医師は他の職業より失業などが少ないため経済的に安定しやすいことが挙げられ、女性医師は他の職業よりメンタルを悪化させるようなストレスが大きいことが挙げられている。
言われてみればそうなのかもしれないが、まだはっきりとしたことはわかっていないようである。
今回の研究では地域的な偏りがあったり、アジア圏の国々が含まれていなかったりするため、今後さらに包括的な研究が必要になるだろう。
ぜひ日本でもどなたか研究していただけると有り難い。