コロナのワクチン開発が進むなかで、もう1つ注目したいのが治療薬である。
コロナにかかっても重症化する前に治すことができれば、コロナの脅威は大きく低下するだろう。
レムデシビルやデキサメサゾンなどが治療薬として注目されているが、私のルーティンワークである文献検索を行っていると、JAMAで抗うつ薬のフルボキサミンが取り上げられているではないか。
抗うつ薬とコロナ?
どういう関係があるのかさっぱりわからない。
メンタルを改善してコロナに立ち向かうということなのか?まさかそんなスピリチュアルな論文がJAMAに載るはずがない。
気になって仕方ないので、この論文を読んでみることにした(Lenze et al., 2020)。
この研究はワシントン大学が行ったもので、発症7日以内のコロナ患者152名を二重盲検でフルボキサミン100mg投与群80名とプラセボ(偽薬)投与群72名に分けて、その後の状態変化を調べている。
それぞれの群に割り付けてから15日以内で、どのくらいの人たちに状態悪化がみられたのか集計されているのだが、その基準は以下の通りである。
・息切れやそれに伴う入院
・酸素飽和度92%未満やそれに伴う酸素投与
この2つが両方ともみられたときを状態悪化とみなしている。
では、どのような結果となったのだろうか。
それがこちらである。
・フルボキサミン100mg投与群80名のうち、状態悪化がみられたのは0名
・プラセボ投与群72名のうち、状態悪化がみられたのは6名(8.3%)
・2つの群には統計的に有意な差がみられた
・重大な副作用がみられたのは、フルボキサミン投与群で1件、プラセボ投与群で6件だった
やはりフルボキサミンの方が良好な成績となっている。
これは一体どういったメカニズムが働いているのか?
論文を読んでみると、細胞内でタンパク質の合成などに関わる小胞体の膜上に存在するシグマ1受容体が関連しているようである。
シグマ1受容体は炎症を引き起こすサイトカインの産生を制御しているのだが、フルボキサミンはこのシグマ1受容体の働きを促進させるのである。
つまり、フルボキサミンを投与することで、シグマ1受容体が活性化し、サイトカインの産生が抑制され、過剰な炎症反応が起きにくくなるということだ。
実際にマウスを使った実験モデルでは、敗血症時の炎症反応が和らいだり、ショック状態に陥ることが少なかったことが報告されているようである。
フルボキサミンにこんな働きがあったとは、私も今まで知らなかった。本当にいい勉強になった。
ただ、今回の論文では対象者数が全体で152名と少数であり、フルボキサミンのコロナへの効果を実証するためには、今後もっと対象者数を増やして研究する必要があるだろう。
また、フルボキサミンはCYP1A2阻害作用もあるため、薬剤の相互作用にも気をつける必要がある。
現段階ではコロナへの投与は時期尚早であるが、今後の大規模研究には注目していきたい。