ストレスの客観的指標となるものはあるのだろうか?
これはとても興味深いテーマである。なぜなら、ストレスは主観的なものであり、定量的な評価が難しいからだ。
大きな負荷を抱えていてもあまり表に出さないこともあれば、小さな負荷でも過剰に反応することもあり得る。なかなか厄介であるが、だからこそ私のような精神科産業医が必要だということでもある。
今までにも血清コルチゾールや心拍変動がストレス指標となることが報告されているが、測定方法が難しかったり、日内変動が大きかったりといったデメリットもあり、精神科や産業保健の現場で本格的に実用化されるまでには至っていない。
そんな中、研究室の先輩であり筑波大学の助教でもある道喜先生から有力な情報を頂いた。
それが、今回ご紹介するαクロトーである。
私も道喜先生からの情報提供で初めて知ったが、αクロトーは老化遺伝子と考えられており、この遺伝子を欠損させたマウスでは寿命が短く、多彩な老化症状が出現したようである。
どうも、αクロトーには抗炎症作用があり、炎症性ストレスが存在するときには代償的に増加するようである。
そして最近、このαクロトーがストレスの予測因子になるのではないかという論文が大阪大学からBMJに発表された(Nakanishi et al., 2019)。
こちらの研究では、40-60歳の健康な男性102名を対象として、ストレスに関する質問紙調査と血清αクロトーの関連について調査している。
その結果、
・ストレスマネジメントができていないほど、血清αクロトーが高い
・睡眠に満足していないほど、血清αクロトーが高い
ということがわかった。
確かに、この結果をみると、αクロトーがストレスと関連しているように思える。
ただし、
・K6(心理的ストレスを評価する質問紙)とは、統計的に有意な関連はみられなかった
・女性100名での追試では、ストレスとの関連はみられなかった
ということも報告されている。
これをみると、まだまだ検証の余地は大きそうだ。
特に、今回の研究では対象者数が比較的少ないことから、今後大規模研究で追試していく必要があるだろう。
また、おそらく今回がαクロトーと心理的ストレスの関連を初めて調査した研究だと思うので、既存のストレス指標である血清コルチゾールや心拍変動などとの関連がどうなっているのかということも気になる。
今後もαクロトー研究に注目していきたい。