初めに言っておくが、インポではない。
それはそれで興味深いテーマだが、今回扱うのは全く異なる概念である。インポを期待していた方々は残念だが、考えを根本から改めていただきたい。
さて、皆さんの周りに、仕事や勉強ができて社会的に成功しているのに、自信が持てず、自分を過小評価してしまう方はいらっしゃるだろうか。
私の周りでは医学部に入ったあたりから増えた気がする。すごく頭がいいのに、不安で仕方ないのだ。
このような状態をインポスター症候群という。
傍からみると、贅沢な悩みのようにも感じるが、当事者たちは本気で悩んでしまうのである。
本人の実績と認識が大きく乖離してしまうのは、学問的になかなか興味深いと前々から思っていたが、最近ネバダ大学からインポスター症候群に関して示唆に富む論文が出たので、この機会に勉強してみることにした(Gardner et al., 2019)。
まず、自信がないだけで社会的に成功しているのであれば、ええじゃないかという疑問が思い浮んだが、実際はそんなに軽視できるものでもない。というのも、
・インポスター症候群では、不安、抑うつ気分、疲労感を抱きやすい
・キャリア形成の妨げになる
ということが指摘されているからだ。
これはどういうことかというと、インポスター症候群には次のような心理的傾向が関連しているのだ。
・自尊心・自己効力感・自己評価の低さ
・完璧主義
・社交不安
・神経症的傾向
確かに、これらの要素がインポスター症候群に影響を与えているのであれば、メンタルや仕事面で支障が出てきてもおかしくはないだろう。
社会的に成功することがあっても、メンタルや仕事面で大きな負荷がかかってしまうような事態は避けたい。
では実際に、インポスター症候群ではどのような対処方法が有効なのだろうか。
実はそのことについても今回の論文のなかで紹介されている。
そのなかで注目すべきものは、
・自分の仕事と関係ない人からサポートを得る
ということである。
サポートを得るのはわかるが、自分の仕事と関係ない人に関しては「なぜ?」と思われたかもしれない。
どうも自分の仕事に関係ある人からサポートをもらおうとすると、デキる他者とデキない自分を比較して、劣等感を抱きやすいようなのである。
実際にこの研究で回帰分析してみると、外(家族、友人、教授)からサポートを得ることはインポスター症候群を改善する方向に働くのに対し、内(自分と同じグループ)からサポートを得ることはインポスター症候群を悪化させる方向に働いている。
つまり、誰からサポートを得るのかがすごく大事ということだ。
特に、外からサポートで大事な点としては、
・自分の仕事のパフォーマンスに関係なく、自分の存在を認めてくれる
・同じ価値観を共有して、助け合っている
ということが挙げられる。
気をつけたいのは、外からサポートを得られていても、おんぶにだっこ状態だとそこでもデキる他人とデキない自分という構図が生じて、インポスター症候群に悪影響が生じてしまうということである。まさに、泥沼状態。
「持ちつ持たれつ」といった対等な感覚が重要になるようだ。
というわけで、インポスター症候群の弊害・要因・対策・注意点についてみてきたが、いかがだっただろうか。
個人的には、仕事に関係のある人にサポートを求めるとインポスター症候群は悪化しやすいことが意外であり、勉強にもなった。
もしどこかでインポスター症候群と出会ったら、仕事外の人間関係から得られるサポートに着目してみるようにお伝えしていきたい。