2019年10月22日火曜日

若手研究者の非正規雇用問題に光を当てた後輩の研究には、今後の展望に大いなるポテンシャルを感じる


日本の研究者の雇用事情についてご存知だろうか。



わが国では文科省の政策で博士号保持者を増やしてきた背景があるが、研究職としての雇用の割り当てが追いつかず、若手研究者の非正規雇用が増えているのだ。



さらに先行研究では、不安定な雇用や失業がメンタルに悪影響を与えたり(Ronnblad et al., 2019; Paul & Moser, 2009)、研究職ではメンタル不調が起きやすかったりすることが報告されている(Yamauchi et al., 2018)。



このような状況を考慮すると、日本の若手研究者の精神状態は危惧されてしかるべきものということになる。






将来有望なノーベル賞候補たちを潰すわけにはいかない。



きっとそんな思いで立ち上がったに違いないのが、我が研究室の後輩である高橋司先生だ。



高橋先生は社会人を経験してから医学部に学士編入で入ったという経歴がある。医学部の狭き門のさらに狭い隙間をくぐり抜けて医師になった優秀な人材であるわけだが、医療業界とは異なる雇用の不安定性を経験した彼のライフコースが今回の研究を後押ししたのかもしれない。






医局での高橋先生は人徳溢れ、先輩の仕事を手伝い、後輩の面倒見も良い。必然的に、先輩からは可愛がられ、後輩からは慕われている。つまり、人気者ということだ。



彼がいるところに人の輪ができ、人の輪ができるところに彼はいる。それはまるでダイソンの掃除機よろしく衰えない吸引力で人々を惹きつけているかのようだ。「WAになっておどろう」という歌があるが、あのWAの中心で踊っているのは高橋先生をおいて他にいない。きっと彼の中心気圧は周囲より100hPaくらい低いのだろう。






また、高橋先生は実はこのブログの影の立役者であり、今まで様々な文献リサーチに協力してくれている。ここで最新のユニークな情報が無料で手に入るのは高橋先生のおかげというわけだ。感謝の意を表して、このブログを読むときは、高橋先生のいる東京・千葉方面に体を向けてもよいくらいだろう。






それでは、そんな高橋先生が手掛けた研究をご紹介しよう(Takahashi et al., 2019)。



この研究では、つくば周辺の研究者2,762名を対象として、雇用形態別の心理的ストレス反応について調査している。



その結果、次のようなことがわかった。



・20-39歳の研究者の心理的ストレス反応は非正規雇用で有意に高まりやすい(オッズ比 1.54, 95%CI 1.14 to 2.07)


・40-59歳の研究者では、このような傾向は認められなかった



というわけで、若手研究者では非正規雇用とメンタルに有意な関連がみられたのだ。



この研究は横断調査であるため、「非正規雇用だからメンタルが悪化しやすい」のか「メンタルが悪いから非正規雇用になりやすい」のかといった因果関係は不明だが、今までの先行研究の結果を参考にすると、非正規雇用→メンタル悪化という可能性は十分に考えられるだろう。






さらに高橋先生の研究はここで終わらず、この若手研究者の非正規雇用問題への方策についても示唆している。



具体的には、



・仕事から得られる報酬(やりがい、達成感など)は心理的ストレス反応を和らげる(オッズ比 0.63, 95%CI 0.50 to 0.79)



ということがわかったのだ。



つまり、このようなやりがいや達成感をいかにサポートしていくかということが若手研究者のメンタルを守るうえで鍵になるということである。



このあたりは前回ご紹介したジョブクラフティングも参考になりそうだが、高橋先生の今後の研究にも注目すべきところかもしれない。



自身も博士号取得に向けて研究を進めている高橋先生の今後の活躍に期待しながら見守っていきたい。