2019年10月12日土曜日

仕事のやる気が出ないだと⁉︎そんなときはジョブクラフティングだ!という話



やる気が出ない職員をどうすればいいか。




うつ病などの精神疾患までには至らないが、サブクリニカルな段階でのプレゼンティーズムに悩む職場は少なくないだろう。



私も産業医面談をしていると、「仕事にはお金以外モチベーションを感じません」という職員などもいて対応に苦慮することがある。







そのような背景のなかで、最近「ジョブクラフティング」が注目されている。



ジョブクラフティングとは、仕事のタスクやその関連領域において、個人が起こす物理的・認知的変化のことをいう(Wrzesniewski & Dutton, 2001)。



簡単に言うと、仕事を自分のニーズに合わせて作り変えることである。



例えば、裁量権を与えて主体性を持たせたり、対人交流を増やしてやりがいを感じるようになったり、仕事の見方を変えて業務の質を向上させたりすることなどがジョブクラフティングに当てはまる。



そして、このようなジョブクラフティングができる人は、仕事への熱意も高いことが報告されているのだ(Bakker et al., 2016)。



したがって、ジョブクラフティングを活用できるなら、そうするに越したことはない。ここでジョブクラフティングしないのは、1億円の宝くじが当たったのに換金しないようなものだろう。



というわけで、ジョブクラフティングの活用方法について考えてみることにした。






まず、ジョブクラフティングはどのような仕組みで働いているのか調べるために、ジョブクラフティングの概念について初めて提唱した2001年のニューヨーク大学の論文を読んでみた(Wrzesniewski & Dutton, 2001)。



それによると、ジョブクラフティングの動機となるものとして、以下の3つがあるという。



・コントロール感・有意味感


・セルフイメージの向上


・他者との交流



確かに、これらを求めて、ジョブクラフティングすることは考えられそうである。自分で意味のないことをしていると思いながら仕事を続けたりするのはなかなか辛いことだろう。






ただ、これらの動機がジョブクラフティングにつながるには、仲介する要因も存在する。それが以下の4つである。



仕事の特性


・裁量権


・他者との関わり



個人的特性


・仕事の捉え方


・モチベーション



つまり、仕事に裁量権や他者との関わりがあったり、本人の意識やモチベーションが高かったりするときは、ジョブクラフティングにつながりやすいということである。



確かに、これは納得しやすい。







では、管理監督者が部下にジョブクラフティングさせるにはどうしたらいいか。



この研究では、ジョブクラフティングは個人が主体となって行うものであり、管理監督者は間接的にしか影響を与えることができないと指摘しているが、「報酬システム」と「組織体制」の可能性について言及している。



つまり、何らかのインセンティブを与えたり、組織の意思決定の場に参加させたりすることが有効かもしれないと示唆しているのだ。



そのうえで、管理監督者はより複雑な仕事を裁量権とともに与え、本人にフィードバックしていくことが求められるとされている。



私は初期研修のときは様々な科をローテーションしたが、このような管理監督者がいる科では、どんなに仕事が忙しくても研修をより有意義に感じることができていた。今振り返ると、あれはジョブクラフティングができていたからこそなせた業のようだ。







ただし、このようにジョブクラフティングしてワークエンゲージメント(熱意ややる気など)を高めていくためには、有能な管理監督者や恵まれた職場環境がないと難しいかもしれない。



もっと汎用性が高く、実践的で手軽にできるものはないか。



・・・



・・







そんなものはない。






と思ったら、あった!



参考になったのは、2016年のエラスムス大学の論文である(Bakker et al., 2016)。



こちらの研究では、多国籍の7つの企業のなかから103組206名の労働者を対象として、ジョブクラフティングとワークエンゲージメントの関係について調べている。



労働者が1組2名のペアになっていることからわかるように、この研究では各々のジョブクラフティングが相方のワークエンゲージメントに影響を与えているのか解析したのである。なかなか面白い。



そして、その結果、



・各々のジョブクラフティングは、相方のジョブクラフティングを通じて、相方のワークエンゲージメントと関連していた



ということがわかった。



つまり、各々のジョブクラフティングは相方のジョブクラフティングを刺激することで、相方のワークエンゲージメントにも影響を与えたということである。






このような結果が得られた背景には、社会的認知理論(Social Cognitive Theory)が関与していると考えられる。



どういうことかというと、人間は他者の行動・態度・反応などを観察しながら、自分の行動が適切かどうか考えるというものである。



私も学生のときに初めて病院実習に出たときは、今までに経験したことのない特殊な職場環境に直面して右往左往していたが、先輩ドクターの言動や態度を観察しながら病院での振舞い方を修正していった。今となっては何の違和感もなく居心地の良い場所になってしまったが。



どうやらジョブクラフティングに関しても社会的認知理論は当てはまり、相方を見習って、自分の言動や考えを修正していくように働くようだ。






ということは、やる気のない職員がいたらどうすればいいか。



それはジョブクラフティングができる同僚とペアを組ませるのが得策となる。



これならば、大きなコストがかからないので、職場でも現実的に実行しやすいのではないだろうか。



参考になれば、ぜひ実践してみていただきたい。